労災保険を後から申請することは可能か?手続きと注意すべきポイントを弁護士が解説

仕事中や通勤中の事故・出来事が原因で、ケガをしたり、病気にかかったりした場合、労働者は、労災保険を利用することができます。

しかし、労働災害に該当することを知らずに健康保険や任意保険を利用して治療をしてしまったり、すでに会社を退職しているケースもあるかもしれません。

このような場合、労災保険を後から申請することはできるのでしょうか。

本記事では、労災保険を後から申請する際の注意点や、労災保険への切り替えの方法、労災保険に切り替えるメリット、注意点等について解説します。

労災保険は後から申請可能!申請する場合の注意点を解説

労災保険には申請期限(時効)がある

労災申請の手続きは、非常にシンプルで、労災申請に用いられる所定の書式に、医師の診断や事業場認定などの必要項目を記載したうえで、所管の労働基準監督署に提出することで申請は完了します。

医療機関が労災指定病院であるか否かや、先行して健康保険を利用していたかどうかによって所定の書式が変わりますが、労働基準監督署に問い合わせれば丁寧に教えてくれますし、必要事項に多少の不備があっても申請を受け付けてくれることもありますので、労働者にとっては利用しやすい制度になっています。

労災保険には申請期限(時効)がある点に注意が必要ですが、労災申請は、制度上の時効期間内であれば、どのタイミングでも申請することができ、今回のテーマである「後から申請」も、もちろん可能です。

労災保険給付8つの種類ごとの申請期限

「制度上の時効期間」は、労災保険給付の種類によって異なり、療養費(治療費や交通費)や休業補償の給付の場合には2年、後遺障害や(被災者死亡の場合の)遺族年金・一時金には5年となります。

ただ、起算点が複雑なので、きちんと労働基準監督署に確認をしたうえで、時効期間内の労災申請となるよう注意する必要があります。

また、未支給の保険給付や特別支給金の期限については、各補償の申請期限と同じになります。

下記の表で給付金の種類ごとの申請期限をまとめましたので、参考にしてください。

  給付の内容 申請期限(時効)
療養(補償)給付 労災による傷病の診療費用や薬剤支給、治療、手術、入院、移送といった療養費用の補償給付です。 療養(補償)給付は、療養の費用を支出した日の翌日から2年で時効になります。
休業(補償)給付 労災による傷病により働けず休業したため、賃金を受け取れない場合に支給される補償です。 休業(補償)給付は、賃金を受けない日の翌日から2年で時効になります。
 葬祭料(葬祭給付) 労災によって亡くなった労働者の葬祭料の補償として支給されます。 葬祭料(葬祭給付)は、被災労働者が亡くなった日の翌日から2年で時効になります。
介護(補償)給付 労災によって療養(補償)給付を受けている労働者に、一定の障害があり、介護を必要とする場合に支給される補償です。 介護(補償)給付は、介護を受けた月の翌月1日から2年で時効になります。
遺族(補償)年金・一時金 労災によって労働者が亡くなった場合に、遺族に対して支給される補償です。遺族(補償)年金と遺族(補償)一時金の2種類があります。 遺族(補償)年金・一時金は、被災労働者が亡くなった日の翌日から5年で時効になります。
障害(補償)給付 労災による傷病が症状固定(これ以上の治療をしても改善が見られない)と診断された後、一定の障害が残った場合に支給される補償です。障害(補償)年金と障害(補償)一時金の2種類があります。 障害(補償)給付は、傷病が治癒した日の翌日から5年で時効になります。
傷病(補償)年金 労災によって療養(補償)給付を受けている労働者が、療養開始から1年6か月経っても治らない場合、傷病等級に応じて支給されます。 傷病(補償)年金については、労働基準監督署長が支給するかどうかを決めるため、申請期限は設けられていません。
二次健康診断等給付金 労働安全衛生法に基づく定期健康診断等のうち、直近のもの(一次健康診断)において、血圧検査・血中脂質検査・血糖検査・腹囲の検査又はBMI(肥満度)、すべてに異常の所見があると診断された場合に支給されます。 二次健康診断等給付金は、一次健康診断を受診した日から3か月で時効になります。

健康保険から労災保険に切り替える方法

健康保険使用後でも、労災保険を後から申請することは可能

労働者は社会保険に加入していますが、社会保険による公的健康保険は、業務上災害以外の傷病に対する医療保険となります。

これに対して、労災保険は、名称のとおり業務上の傷病に対する保険制度となります。

つまり、傷病が業務上のものであるか否かによって、利用できる保険が異なり、仮に業務上の傷病の場合には健康保険を利用できないことになります。

しかし、労災保険を使うべきであるということを知らずに、普段の受診と同様に健康保険を利用して治療を受けてしまう方もいます。

このように労災で健康保険を利用してしまった場合でも、労災保険を後から申請することによって、健康保険から労災保険に切り替えることが可能です。

健康保険から労災保険への切り替え手続き

健康保険から労災保険に切り替えを行いたい場合、まずは受診した医療機関へ問い合わせて、労災保険への切り替えが可能か確認を行います。

① 健康保険から労災保険への切り替えが可能な場合

「療養(補償)給付たる療養の給付請求書(様式第5号、16号の3)」を作成のうえ、事業主の証明をもらい、治療費の領収書と一緒に受診した医療機関に提出を行えば、すでに支払っている自己負担分の治療費を返してもらうことが可能です。

② 健康保険から労災保険への切り替えができない場合

健康保険の保険者(全国健康保険協会や健康保険組合)に連絡をして、間違って健康保険を利用してしまった旨を伝えます。

そうすると、保険者から本人の自己負担分以外の治療費の請求書が届きますので、その支払いを行いましょう。

その後、労働基準監督署に以下の書類を提出します。

  • 療養(補償)給付たる療養の費用請求書(様式第7号、第16号の5)
  • 病院で支払った治療費の領収書
  • 保険者に支払った返還額の領収書
  • 健康保険組合から送られてきたレセプト(未開封)

これらの書類を提出すれば、後日、労災保険から被災労働者が負担した治療費の全額の支払いを受けることができます。

健康保険から労災保険への切り替えが必要な場合、切り替え手続きに一定の時間を要するため、手続きが遅れれば労災申請の時効に間に合わない恐れもあります。

時効を過ぎれば、治療費は自己負担になってしまいますので、早めに行うようにしましょう。

通勤災害での任意保険と労災保険の使用について

通勤災害の要件

労働災害と聞くと、就業時間中の業務災害によるケガを思い浮かべる方が多いかと思いますが、通勤時あるいは退勤時の交通事故等に関しても労災保険の適用対象です。

例えば、通勤中に事故が発生し転んでケガを負った場合、労災保険を利用して治療を受けることができます。

もちろんケガのために仕事ができない場合には、休業給付を受けることもできます。

通勤災害の認定基準は、「労働者が怪我を負ったのが通勤中であること」ですが、労働者災害補償保険法で定められている通勤の定義は下記の内容で、この要件を満たした状況下での事故によるケガが、通勤災害として労災認定されます。

【通勤とは】

就業に際し、労働者が次のような移動を、合理的な経路かつ方法によって行うこと。ただし、業務の性質を有するものを除く。

①住居と就業場所との間の往復

②就業場所から他の就業場所への移動

③一号に掲げる往復に先行または後続する住居間の移動(家族が暮らす住居と単身赴任先との間の移動など)

労働者が、上記移動の経路を逸脱したり中断したりした場合、逸脱また中断の間、およびその後の移動通勤としない。

通勤災害では任意保険と労災保険のどちらも利用が可能

自動車事故の場合、自動車保険の関係で、労災保険を利用せず、自動車保険を利用することが通例となります。

例えば、自損事故でケガを負った場合、ご自身の車の自動車保険の人身傷害保険を利用して治療を受けることが通例となります。

また、追突事故など過失のない事故にあい、ケガを負った場合には、加害者の任意保険により治療費が支払われるのが通例となります。

このように、自動車事故による通勤災害が発生した場合、自動車保険が利用できるので、労災保険を利用する必要がない場合も多くあります。

ですが、自動車保険が適用される通勤災害であっても、例えば、保険会社が治療費の支払いを拒んでいる場合、まだ治療の必要があるのに治療を打ち切ってきた場合、被災者にも一定の過失割合があって治療費の自己負担が生じる場合など、労災保険を利用するメリットがある場面があります。

そのような場合には、労災保険を積極的に利用することをお勧めします。

特に、自動車保険では、ケガの内容・程度によりますが、治療の打ち切りが早すぎると訴える方も多くみられます。

もちろん、労災保険においても、審査がありますので、治療打ち切り後の治療費について、必ず労働災害が認定されるわけではないですが、労災保険が“労働者のための保険”ということもあって、比較的、審査が緩やかと言われています。

労災保険の利用を検討する意味は十分にあると思います。

通勤災害で任意保険を使った場合、労災保険への切り替えはどうする?

自動車保険から労災保険に切り替える場合の手続きですが、基本的には、通常の労災申請と変わりません。

労働基準監督署に所定書式を確認し、医師の診断や事業場認定を受け、労働基準監督署に提出することになります。

なお、通勤災害の場合、通常の通勤途上であることを確認する必要があるので、通勤経路などの資料も必要になってきます。

会社を退職した後でも労災申請できる?

退職後でも労働災害の申請が可能

労災保険に限らず、保険とは、保険期間内に保険事由が生じた場合に給付が受けられる仕組みとなっています。

そのため、労災保険でも、就労期間内に傷病の原因となる出来事(保険事由)が生じていれば、退職した後でも労災申請は可能となります。

※労働者災害補償保険法でも、労働者が退職したとしても労災保険を受ける権利に変更はない旨明確に規定されています。

例えば、事故によって重度の傷害を負った場合に、就労が難しい状況なのあれば、会社に在籍しながら労災申請を行ってもよいですし、会社を退職してから労災申請を行っても大丈夫です。

なお、会社に在籍していれば、社会保険に加入できるので、通常は在籍したままの方が労働者にとっては有利と考えられています。

労災保険の申請手続きは被災労働者自身でも可能

会社に在籍中であれば、会社のほうで書式を準備し、必要事項を記載したうえで、労働基準監督署に申請を行ってくれるのが通常です。

これに対し、退職後に労災申請を行う場合、会社側が積極的には協力してくれないことがあり、労働者自身で手続きを行わなければならないことがあります。

労災保険の申請の際には、事業主の記載や証明が必要な項目もありますが、退職後であり事業主の協力が得られないという場合には、空欄にしたままでも労災保険の申請をすることは可能です。

会社が労災申請をしてくれない場合の対応方法

労働基準監督署に相談する

明らかな労災事故であるにもかかわらず、会社側が労災申請に協力しない「労災隠し」の事案は、コンプライアンス意識の高まりから件数は減っているとは思いますが、まだ存在します。

明らかな「労災隠し」は、極めて悪質な事案として認識されており、労働基準監督署に通告することで、労働基準監督署が動いてくれることも多いです。

電話でも相談できますので、積極的に連絡を取ることをお勧めします。

被災者本人が労災申請を行う

明らかな「労災隠し」とは言えない事案、つまり、傷病の原因が仕事中の事故であるか明確でない場合には、悪質な事案とまでは言えないわけですが、労災申請に協力してもらえないことに違いはありません。

会社側の協力が得られない場合、被災労働者自身で、労災申請の書式を準備し、必要事項を補充したうえで、労災申請を行うことになります。

会社側には、「事業場認定拒否理由書」を提出してもらう等、ある程度の折衝は必要となります。

必要書類は、労働基準監督署のほうでも教えてくれますが、ご自身での手続きが難しいようであれば、弁護士などの専門家のサポートを受ける必要があります。

まとめ

以上のとおり、労災保険は、色々と活用場面がありますが、どのようなメリットがあるのかを知らないと、労災保険の利用も考えずに、知らずのうちに損をしていることがあります。

また、労働基準監督署からの助言が受けられるとは言え、いざ、ご自身で労災申請を行おうとすれば、書類が煩雑で、スムーズにいかない面も多いと思います。

さらに、会社に対して損害賠償請求をするためには、被災労働者側が、会社の安全配慮義務違反や使用者責任があったという点や具体的な損害の金額についても主張していく必要があります。

したがって、会社に対する損害賠償請求をお考えの方は、弁護士に窓口を依頼することをおすすめします。

当事務所では、労災に関するご相談は初回無料にて承っております。

労災の被害にあわれて労災保険の活用や会社への損害賠償請求をご検討の方は、一度当事務所までご相談ください。


労災(労働災害)に関する基礎知識や重要なポイント、注意点についてコラムで解説していますので、ぜひご覧ください。

この記事を監修した弁護士
弁護士 細野 希

細野 希
(ほその のぞみ)
弁護士法人一新総合法律事務所 理事・弁護士

出身地:新潟県新潟市
出身大学:新潟大学法科大学院修了
新潟県都市計画審議会委員(2021年~)、日本弁護士連合会国選弁護本部委員(2022年~)を務めています。
事故賠償チームに所属。主な取扱分野は、交通事故、労災、離婚。
そのほか、金銭問題、相続等の家事事件や企業法務など幅広い分野に対応しています。

※本記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。