労災の休業補償給付と傷病手当金は両方受け取ることはできる?

1 「休業補償給付」と「傷病手当金」の関係

本コラムでは、休業補償給付と傷病手当金の関係について説明をします。

そもそも、休業補償給付と傷病手当金が一体どういうものかという点で不明確な方もいるかと思います。

どちらの制度も労働者等がけが、病気等で仕事を休まざるを得なくなったときに給与の代わりに受け取ることができる金銭という意味合いでは同じです。

もっとも、給付を想定する場面、守備範囲がそれぞれ異なっています。

2 給付場面の違い

休業補償給付と傷病手当はそれぞれ根拠となる法律・制度が異なります。

前者は労災保険、後者は健康保険の制度として給付されるものとなります。

両制度の違いは健康保険法1条の目的規定によく表れています。

健康保険法

(目的)
第一条 この法律は、労働者又はその被扶養者の業務災害(労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号)第七条第一項第一号に規定する業務災害をいう。)以外の疾病、負傷若しくは死亡又は出産に関して保険給付を行い、もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。

つまり、労災保険は業務災害に関する保険給付を、健康保険は業務災害以外の疾病等に関する保険給付を行っているということになります。

例えば、就業中や通勤・退勤中に負ったけがの治療については労災保険を使うことはできますが健康保険を使うことはできません。

反対に、仕事とはまったく関係ないプライベートで負ったけがについて、健康保険のみを使うことができます。

3 休業補償給付と傷病手当は両方受け取ることができる?

以上の点を前提にすれば、労災上の休業補償給付と、健康保険の傷病手当の双方を一緒に受け取ることはできないということがわかります。

労災の休業補償給付を受け取っているということは就業中、通勤退勤中に負ったけがに関する給付ということになり、そもそも健康保険が使えないからです。

逆もまた同様ですね。

それぞれどのような場面で活用される制度なのかを理解することで、どのような給付が受け取れるかが明確になります。


労災(労働災害)に関する基礎知識や重要なポイント、注意点についてコラムで解説していますので、ぜひご覧ください。

この記事を執筆した弁護士
弁護士 長谷川 伸樹

長谷川 伸樹
(はせがわ のぶき)
弁護士法人一新総合法律事務所 弁護士

出身地:新潟県村上市
出身大学:神戸大学法科大学院修了
新潟県弁護士会裁判官選考検討委員会委員長などを務める。
主な取扱分野は、交通事故、労働問題、債務整理。
交通事故や労働災害などの案件を取扱う事故賠償チームに所属しています。

※本記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。