労災保険の介護(補償)給付のすべて│対象範囲から介護保険との併用可否まで総合解説

業務や通勤中の災害(労災)で重い障害が残り介護が必要となった方は、労災保険から「介護(補償)給付」を受けられる可能性があります。

これは、障害(補償)等年金などを受けている方が、常時または随時介護が必要となった場合に支給される給付です。

しかし、介護保険との併用ルールや支給要件、申請手続きは複雑です。

本記事では、労災の介護(補償)給付について、以下の点を網羅的に解説します。

  • 給付の対象となる障害の状態や具体的な金額
  • 申請から受給までの具体的な手続きの流れ
  • 介護保険制度との併用に関するルール
  • 請求期限(時効)などの注意点
  • 労災保険だけでは不足する場合の対処法

1. 労災保険と介護(補償)給付の基礎知識

業務が原因で重度の障害が残り、日常生活において介護が必要となった場合に介護補償給付(通勤災害の場合は介護給付)が支給されます。

この給付は、すでに労災保険の「障害(補償)等年金」または「傷病(補償)等年金」を受給している方のうち、特に重い障害等級に認定された方が対象となります。

具体的には、常に介護が必要な「常時介護」か、随時介護が必要な「随時介護」のいずれかの状態にあると認められる必要があります。

給付額は、介護にかかった実際の費用に応じて変動します。
また、ご家族(親族等)が介護をおこなうか、専門事業者のサービスを利用するかによっても変わります。


この制度は、単に医療費を補填するだけでなく、被災された労働者とご家族の生活全体を支えることを目的としています。

給付を受けるためには、労働基準監督署による審査が必要となるため、制度内容を正しく理解し、早期に準備を始めることが重要です。

1-1. 労災保険とは:適用範囲と保険料の仕組み

労災保険は、正社員だけでなく、パートタイマーやアルバイトを含む、雇用されて働くすべての労働者を対象とする強制保険です。

保険料は全額事業主が負担するため、労働者の負担はありません。

業務災害または通勤災害と認定されれば、誰でも給付を受ける権利があります。


保険料率は、事業の種類ごとに災害発生のリスクに応じて定められており、リスクの高い業種ほど高くなります。

これにより、事業主に職場環境の安全性を高める動機が生まれ、労働災害の予防にも繋がっています。


このように、社会全体で働く人々を支える仕組が労災保険です。

万が一重い障害が残った場合の介護(補償)給付も、この枠組みによって保障されています。

1-2. 介護(補償)給付の概要

介護(補償)給付は、労災による傷病が原因で、精神・神経系統や胸腹部臓器などに重篤な障害が残り、日常生活を送るために常時または随時、他者の支援が必要となる場合に支給されます。

例えば、労災保険の障害等級・傷病等級において、最も重い第1級のすべての方、または第2級のうち「精神神経・胸腹部臓器の障害」を有する方が対象となります。

参照 介護(補償)等給付の支給要件(一定の障害の状態にあること)
介護の区分具体的な障害の状態(例)
常時介護① 精神神経・胸腹部臓器の障害で常に介護が必要な状態
(障害等級第1級3号・4号 、傷病等級第1級1号・2号)
②・両眼失明とともに、他の部位にも障害または傷病等級第1級・第2級の障害がある
 ・両上肢および両下肢が亡失(失う)または用廃(機能の低下)の状態
随時介護① 精神神経・胸腹部臓器の障害で随時介護が必要な状態
(障害等級第2級2号の2・2号の3 、傷病等級第2級1号・2号)
② 障害等級1級または傷病等級1級で、常時介護は不要である状態

給付額は、親族や友人・知人が介護をおこなうか、専門の介護サービスを利用するかによって上限額などが変動します。

支給決定には、医師の診断や介護の実態調査など厳格な審査があります。
ご自身の状態がどの区分に該当する可能性があるか、早い段階で専門家に相談しましょう。
あわせて、手続きの流れを把握しておくことも大切です。

具体的な障害等級と介護区分の関係については、「4-1. 支給要件 」でくわしく解説します。

2. 介護保険制度の基本:要介護認定とサービス概要

労災保険の介護(補償)給付を検討するうえで、日本のもう一つの公的な介護制度である「介護保険制度」との違いを理解しておくことは非常に重要です。

両者の関係性を知ることで、より手厚いサポートを受けられる可能性があります。


介護保険制度は、主に高齢(原則65歳以上)や特定の疾病(40歳~64歳の場合)により介護が必要となった方が対象です。

少ない自己負担(原則1~3割)で介護サービスが利用できます。


市区町村がおこなう要介護認定によって「要支援1・2」「要介護1~5」の区分が判定され、その度合いに応じて利用できるサービスの種類や量が変わります。

労災保険の給付とは異なり、介護が必要になった原因を問わない点が大きな特徴です。

2-1. 介護保険制度の仕組みと被保険者の範囲

介護保険は市区町村が運営主体(保険者)となり、40歳以上の国民が被保険者として保険料を納めることで成り立っています。

  • 第1号被保険者
    65歳以上の方
  • 第2号被保険者
    40歳から64歳までの医療保険加入者

第2号被保険者は、がん末期や関節リウマチなど、加齢に伴う特定の16疾病が原因で介護が必要になった場合に限り、サービスを利用できます。

労災保険の介護(補償)給付は労災を原因とするのに対し、介護保険は主に加齢を原因とします。

このようにカバーする場面が異なるため、状況によっては両方の制度の適用を検討します。

ただし、その際は給付が二重にならないように一定の調整がなされる点に注意が必要です。

2-2. 要介護認定のプロセスと注意点

介護保険サービスを利用するには、まずお住まいの市区町村の窓口で要介護認定の申請が必要です。

申請後、調査員による訪問調査や、主治医の意見書などをもとに審査がおこなわれ、介護の必要度が判定されます。

認定結果に不服がある場合は、不服申し立て(審査請求)も可能です。


認定には一定の時間がかかるため、特に労災と並行して手続きを進める可能性がある場合は、早めに申請を検討しましょう。


申請の際は、日常生活で困っていることや、ご家族の介護負担などを具体的に伝えることが重要です。

実態が正確に伝わらないと、想定より低い要介護度に認定されてしまう可能性もあります。

ありのままの状況をしっかりと説明しましょう。

2-3. 介護保険で受けられるサービスの種類

介護保険では、利用者の心身の状態や希望に応じて、多種多様なサービスが提供されています。

  • 在宅サービス
    • 訪問介護(ホームヘルプ)
    • デイサービス(通所介護)
    • ショートステイ(短期入所生活介護)
    • 福祉用具のレンタル など
  • 施設サービス
    • 特別養護老人ホーム
    • 介護老人保健施設
    • 介護医療院 など

労災による突然の障害で生活が一変した場合、これらの介護保険サービスを組み合わせることで、ご本人とご家族の負担軽減が期待できます。

3. 労災保険と介護保険の併用可否:給付調整のポイント

「労災保険と介護保険、両方使えるの?」これは非常によくある質問です。
結論から言うと、両制度の併用は可能ですが、給付の優先順位と調整ルールがあります。

原則として、同一の事由(労災による傷病)については、労災保険の給付が介護保険の給付に優先しておこなわれます(介護保険法 第20条 )。

これは、業務災害の原因者である事業主が負担する保険料を財源とする労災保険が、先に責任を果たすべきという考え方に基づいています。

したがって、介護サービスを利用した場合、その費用はまず労災保険の介護(補償)給付から支払われます。

そして、労災保険の給付限度額を超える部分や、労災保険の対象とならないサービス(例:加齢による別の傷病が原因の介護)については、介護保険の適用を検討するという流れになります。

この調整は複雑です。
法律の専門家である弁護士に相談し、どの費用をどちらの制度に請求するべきか、事前に整理しておくことで、トラブルを回避できます。

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4. 介護(補償)給付の支給要件と給付金額

ここでは、介護(補償)給付を実際に受けるための具体的な要件と、支給される金額について解説します。

参照 介護(補償)給付を受けるための4つの要件(労働者災害補償保険法 第12条の8 第4項
介護(補償)給付は、以下の4つの要件をすべて満たす必要があります。

  1. 一定の障害の状態にあること
    「1-2. 介護(補償)給付の概要」の項目に掲載の「参照 介護(補償)等給付の支給要件(一定の障害の状態にあること)」に該当していること。
  2. 現に介護を受けていること
    専門の事業者や、親族、友人・知人などから、実際に介護サービスを受けていること。
  3. 病院または診療所に入院していないこと
    入院中は、医療機関で必要なケアが提供されるため、介護(補償)給付の対象外となります。
  4. 特定の施設に入所していないこと
    介護老人保健施設、特別養護老人ホームなどの施設に入所している場合も、同様の理由で対象外となります。


特に、3と4の入院・入所中は対象外という点は見落としがちなので注意が必要です。

4-1. 給付金額の算定方法

支給される金額は、介護の状態(常時・随時)や介護の担い手によって大きく異なります。

具体的な支給額は以下の通りです(金額は年度によって改定されるため、最新の情報を厚生労働省のウェブサイト等でご確認ください)。

参照 介護(補償)等給付の月額限度額(令和7年度の例)
介護の区分介護の状況支給額
常時介護①介護サービス事業者等に費用を支払った場合支出した費用額
(上限:186,050円/月)
②親族等が介護し、費用を支払っていない場合定額:85,490円/月
③親族等が介護し、費用も支払っている場合支出額が85,490円未満
→85,490円
支出額が85,490円以上
→その支出額(上限:186,050円)
随時介護①介護サービス事業者等に費用を支払った場合支出した費用額
(上限:92,980円/月)
②親族等が介護し、費用を支払っていない場合定額:42,700円/月
③親族等が介護し、費用も支払っている場合支出額が42,700円未満
→42,700円
支出額が42,700円以上
→その支出額
(上限:92,980円)

ご家族が介護をおこなう場合でも定額が支給されるため、介護による離職や収入減を補う上で非常に大切な制度です。

5. 給付申請から受給までの流れ

実際に介護(補償)給付を申請し、受給するまでの具体的なステップを解説します。

手続きを円滑に進めるために、全体の流れを把握しておきましょう。

5-1. 申請書類の準備と提出先

介護(補償)給付の請求は、「介護補償給付・複数事業労働者介護給付・介護給付支給請求書(様式第16号の2の2) 」という書類を使用しておこないます。

この請求書は、厚生労働省のホームページからダウンロードするか、お近くの労働基準監督署の窓口で入手できます。

【主な添付書類】

  1. 医師または歯科医師の診断書
    介護の必要性を証明する書類です(※障害等級により不要な場合があります)。
  2. 費用の額を証明する書類
    介護サービス事業者などに費用を支払った場合に必要です。
    領収書などを添付します。
  3. 介護の事実に関する申立書
    親族や友人・知人が介護を行った場合に、介護者本人が記入・提出します。


申請には、これらの障害の状態を証明するための医師または歯科医師の診断書が原則として必要です。

ただし、すでに傷病(補償)等年金を受給している方や、特定の障害等級(第1級3号・4号、第2級2号の2・2号の3)に該当する方は、診断書の添付が不要な場合があります。

その他、介護費用の領収書など、介護を受けている事実を証明する書類の提出が求められます。

これらの書類を揃え、ご自身の事業場を管轄する労働基準監督署長宛に提出します。

書類の記入方法で不明な点があれば、提出前に労働基準監督署の担当者に相談しておくと良いでしょう。

5-2. 審査の流れと不支給の場合の対応

請求書が受理されると、労働基準監督署で審査が開始されます。

審査では、提出された書類に基づき、障害の程度や介護の必要性、介護が実際におこなわれているかなどが総合的に判断されます。


審査期間はケースバイケースですが、数週間から数ヶ月かかることもあります。

必要に応じて、追加の資料提出を求められたり、担当者が介護状況の聞き取り調査をおこなったりする場合もあります。


審査の結果、支給が決定されると「支給決定通知」が届き、指定した口座に給付金が振り込まれます。

もし不支給や減額の決定がなされた場合は、その理由が通知書に記載されています。


決定に不服がある場合は、審査請求という不服申し立ての手続きが可能です。

一度不支給となっても、新たな証拠を添えて再請求することで決定が覆る可能性もあります。
あきらめずに弁護士へ相談しましょう。

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6. 時効と注意点:請求期限と失効リスク

労災保険の給付金には、請求できる期間に限りがあります(時効)。

時効期間を過ぎると給付を受ける権利そのものが失われるため、注意が必要です。

6-1. 時効の起算点と具体的な期限

介護(補償)給付の請求権は、介護を受けた月の翌月の1日から起算して2年を経過すると、時効によって消滅します。

例えば、2025年10月分の介護に対する給付を請求する場合、時効のカウントは2025年11月1日から始まり、2年後の2027年10月31日を過ぎると請求できなくなります。


介護(補償)給付の請求は月単位で行うのが基本ですが、3ヶ月分をまとめて請求することも可能です。

ただし、この場合であっても、それぞれの月について時効が進行していることに変わりはありません。
したがって、請求漏れがないよう注意深く時効を管理する必要があります。

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6-2. トラブルを防ぐために知っておきたい手続きのポイント

時効という不利益を避けるためには、計画的な準備が何よりも大切です。

  • 早めの着手
    診断書の取得など、準備に時間がかかる書類もあります。
    介護が必要になったら、できるだけ早い段階で請求手続きに着手しましょう。
  • 専門家への相談
    ご自身のケースで時効の起算点がいつになるかなど、少しでも疑問があれば、すぐに労働基準監督署や社会保険労務士、弁護士に相談してください。
    時効の進行を止める(時効の完成猶予・更新)手続きについても相談できます。
  • 記録の保管
    介護日誌や費用の領収書など、介護の実態を示す記録は、請求の根拠となるだけでなく、万が一のトラブルの際にも重要な証拠となります。日頃から整理・保管しておくことを心掛けましょう。

7. 会社に対する損害賠償請求

労災保険の給付では、事故によって受けた精神的苦痛に対する「慰謝料」は一切支払われません。

介護(補償)給付などは、あくまで長期療養中の生活費等を補填するものであり、被災された方が受けた損害のすべてが補償されるわけではないのです。


もっとも、会社の安全管理体制の不備(安全配慮義務違反)により労働災害が発生した場合など、労働災害の原因が会社側の過失にあるケースもあります。

このような場合には、被災労働者は労災保険からの給付とは別に、会社に対して民事上の損害賠償請求ができる場合があります。会社に対する損害賠償請求では、労災保険では補填されなかった慰謝料も請求に含めることが可能です。


会社への損害賠償請求は、示談交渉から始めるのが通常です。

もし交渉がまとまらなければ、裁判手続(労働審判や民事訴訟)に移行することもあります。

こうした複雑な交渉や裁判手続となると、労働者個人では負担が大きいため、専門家である弁護士に依頼することをおすすめします。

参照 介護弁護士依頼のメリット

  • 適正な賠償額の算定
    事故状況や後遺障害の内容をふまえて、法的に請求可能な賠償額を正確に計算します。
  • 会社との交渉代理
    相手方となる会社との交渉は、被害者にとって大きな精神的負担となります。
    弁護士が代理人として交渉することで、その負担を大幅に軽減できます。
  • 法的手続きの代行
    複雑な交渉や裁判手続きなどをすべて任せることができ、治療やリハビリに専念できます。

労災保険からの給付と会社からの損害賠償金は、互いに調整(損益相殺)が必要となる場合があります。

ご自身の権利を最大限に実現するためにも、労災問題にくわしい弁護士へ一度ご相談ください。

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8. まとめ

本記事では、労災保険の介護(補償)給付について、その全体像を解説しました。

労災による後遺障害と、それにともなう介護は、ご本人とご家族の生活に大きな影響を及ぼします。

介護(補償)給付は、そうした方々の経済的・精神的負担を軽減するための重要な制度です。


まずはご自身の状況を整理し、利用できる公的支援を最大限に活用しながら、今後の生活設計を立てていきましょう。

この記事が、その一助となれば幸いです。


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この記事を監修した弁護士
弁護士 谷尻 和宣

谷尻 和宣
(たにじり かずのぶ)
弁護士法人一新総合法律事務所 理事・松本事務所長・弁護士

出身地:京都府
出身大学:京都大学法科大学院修了
主な取扱分野は、交通事故などの事故賠償案件と相続。そのほか、離婚、金銭問題など幅広い分野に精通しています。
保険代理店向けに、顧客対応力アップを目的として「弁護士費用保険の説明や活用方法」解説セミナーや、「ハラスメント防止研修」の外部講師を務めた実績があります。