労災保険を使うと、会社が負担する労災保険料は高くなる?

労災保険とは?

労災保険とは、業務中や通勤時に労働者が負傷等した場合に、労働者本人やその遺族に対して、必要な保険給付を行うための保険です。

従業員を1名でも常時雇用している事業主は、事業主が法人であっても個人であっても、原則として労災保険に加入する法的な義務があります。

また、労災保険は、社会保険とちがって、その全額を事業主が負担することになります。

業種によって異なる労災保険料率

労災保険の保険料の計算にあたっては、「労災保険料率」というものが用いられます。

類型的に労災が起こりやすい業種に対しては、高い労災保険料率が設定されています。

会社が支払っている賃金の総額に、当該業種の労災保険料率を乗じることで、労災保険料が算出されます。

「メリット制」とは

「労災保険料率」というのは、あくまで「業種」によって定められている数値ですが、業種は同じでも、作業工程、機械設備、作業環境、事業者ごとの労災防止努力等によって、個々の事業場での労災発生率には現実的な差が生じてきます。

そのため、労災保険制度では、当該事業場の労災の多い少ないに応じて、一定の範囲内(原則として基礎となる保険料の±40%、例外的に±35%、30%)において、労災保険料率や労災保険料額を増減させる制度(「メリット制」と呼ばれています。)を設けています。

つまり、ある労働者が労災保険を使った場合に、事業主が負担する労災保険料が増加するかどうかは、この「メリット制」により労災保険料率又は労災保険料が増加するかどうかによって決まる、ということになります。

逆にいえば、労災保険を使用した場合であっても、「メリット制」が適用されない場合には、労災保険料率や労災保険料の増減はありません。

「メリット制」が適用される要件

 一般に最も多いと思われる「継続事業」(事業期間が予定されていない事業)の場合、「メリット制」の適用があるのは、①100人以上の労働者を使用した事業であること又は②20人以上100人未満の労働者を使用した事業であって、災害度係数が0.4以上であること、のいずれかです。

②の「災害度係数」は「労働者数×(業種ごとの労災保険率-非業務災害率)」で求められる数値です。

 そのため、①にも②にも該当しない事業主については、労災保険を利用したとしても、その後に負担する労災保険料が増額となることはありません。また、労災であっても、通勤災害の場合には、労災保険の使用によって労災保険料が増額になることはありません。


労災(労働災害)に関する基礎知識や重要なポイント、注意点についてコラムで解説していますので、ぜひご覧ください。

この記事を執筆した弁護士
弁護士 下山田 聖

下山田 聖
(しもやまだ さとし)
弁護士法人一新総合法律事務所 理事・高崎事務所長・弁護士

出身地:福島県いわき市
出身大学:一橋大学法科大学院修了
主な取扱分野は、労働災害をはじめ、企業法務(労務・労働事件(企業側)、契約書関連、クレーム対応、債権回収、問題社員対応など)、交通事故、金銭問題等。そのほか離婚、相続などあらゆる分野に精通しています。

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