労災の治療費と休業補償の支給期間

労働災害にあい、長期にわたり治療や休業を余儀なくされるケースがあります。

労災認定がされると、医療機関等で要した治療費に対しては療養(補償)給付、仕事を休んだ分の損害に対しては休業(補償)給付の支給を受けることができますが、これらの給付はいつまで支給されるのでしょうか。

本コラムでは、労災保険による療養(補償)給付および休業(補償)給付の支給期間について説明します。

1 療養(補償)給付の支給期間

療養(補償)給付の支給期間に上限は定められておらず、病気やケガが「治ゆ」の状態となるまで支給されます。

つまり労働者は、治ゆの状態となるまで、自己負担なく医療機関等で治療を受けることができます。

なお、この「治ゆ」という概念は、傷病が完治することだけではなく症状固定(=症状が一進一退の状態になること)を含みます。

治ゆに至ったかどうかは、医療機関等から提供される情報をもとに労働基準監督署で判断されます。

~豆知識~

通勤災害等の場合、労災保険を利用せず加害者側の任意保険(対人賠償保険)を利用して治療を受けることもできますが、保険会社の対応によっては、「治ゆ」に至っていない段階で治療費の支払いが打ち切られることがあります。

このように不当に早期に治療費の支払いを打ち切られた場合、労災保険に切り替えることで、労働者の自己負担なく治療を継続できる場合があります。

2 休業(補償)給付の支払期間

⑴ 支払いの始期

休業(補償)給付は以下の支給要件を満たす場合に、休業4日目から支払いが行われます。

   ①業務上の負傷または疾病により療養していること

   ②①により労働することができないこと

   ③勤務先から賃金の支払いを受けていないこと

   (労働者災害補償保険法第14条1項)

休業初日から3日まではいわゆる待期期間として給付が受けられません。

なお、土日祝日などの会社の所定休日も待期期間としてカウントされます。

⑵ 支払いの終期

休業(補償)給付は、上記⑴の支給要件を満たしているあいだは支払いが続き、支払期間の上限は特に定められていません。

労働基準監督署によって「治ゆ」と判断され、療養の必要性がなくなった場合には、①の要件を満たさなくなるため、休業(補償)給付の支給も終了となります。

また、1年6か月を経過しても傷病が治ゆしない場合で、かつ1級~3級に該当する重度の障害と認定された場合には、休業(補償)給付から傷病補償年金へ移行するため、休業(補償)給付としての支払いは終了となりますが、その後は、傷病補償年金として休業に対する補償を受け続けることが可能です。


労災(労働災害)に関する基礎知識や重要なポイント、注意点についてコラムで解説していますので、ぜひご覧ください。

この記事を執筆した弁護士
弁護士 渡辺 伸樹

渡辺 伸樹
(わたなべ のぶき)
弁護士法人一新総合法律事務所 理事・長野事務所長・弁護士

出身地:新潟県上越市
出身大学:中央大学法科大学院修了
主な取り扱い分野は交通事故、労災など。
事故賠償チームに所属し、保険代理店向けのセミナー講師を多数務めた実績があります。

※本記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。