労災における葬祭給付のすべて|支給条件から手続き・金額計算まで徹底解説

目次

ご家族が労働災害(労災)で亡くなられた場合、遺族の経済的負担を軽減するため、労災保険から「葬祭給付(葬祭料)」が支給されます。

この記事では、労災の葬祭給付について、以下の点を分かりやすく解説します。

  • 葬祭給付とはどのような制度か
  • 誰が、どのような場合に給付を受けられるのか
  • 具体的にいくら支給されるのか、その計算方法
  • 申請手続きの流れと必要書類
  • 他の給付金(遺族(補償)等年金や健康保険の埋葬料)との関係

1. 労災保険における葬祭給付とは?

葬祭給付(業務災害の場合は「葬祭料」といいます)は、労働者が業務上または通勤中の事故や疾病が原因で亡くなった場合に、その葬儀をおこなう方に対して支給される一時金です。


この制度の主な目的は、予期せぬ不幸に見舞われたご遺族の経済的な負担を速やかに軽減することにあります。


労災保険は、国が運営する公的な保険給付制度であり、その財源は事業主が支払う保険料です。


労働者を一人でも雇用する事業主は、原則として労災保険に加入する義務があるため、正社員だけでなく、パートタイマーやアルバイトの方であっても、労災で亡くなった場合にはこの制度の対象となります。


原則として会社の所在地を管轄する労働基準監督署長に対して請求手続きをおこない、審査を経て給付金が支払われる仕組みです。

2. 支給対象と受給要件

葬祭給付を受け取るための要件は、① 故人の死亡が労災(業務災害または通勤災害)と認められること、② 申請者が給付を受けられる資格があることの2点です。

2-1. 業務災害・通勤災害と認められるケースと認定基準

葬祭給付の最も重要な前提条件は、労働者の死亡の原因が「業務災害」または「通勤災害」であると労働基準監督署に認められることです。

業務災害と認められるには、法律上、以下の2つの要件が必要です。

  1. 業務遂行性
    労働者が労働契約に基づき、事業主の支配下にある状態で発生した災害であること。
    (例)工場の機械操作中、建設現場での作業中、事務所内での業務中、出張に伴う移動や宿泊中など。
  2. 業務起因性
    業務が原因となって発生した災害であること。
    (例)機械に巻き込まれて負傷・死亡した、高所から転落した、過労により脳・心臓疾患を発症したなど。

一方で、休憩時間中の私的な行為や、業務終了後の私的な飲み会での事故などは、原則として業務災害とは認められません。


通勤災害とは、労働者が通勤の途中で被った災害を指します。

ここでいう「通勤」とは、単に家と会社の往復だけでなく、以下のような移動も含まれます。

  • 住居と就業場所との間の往復
  • 複数の就業場所間の移動
  • 単身赴任先と帰省先の住居との間の移動(基発第0331042号 )

ただし、通勤経路を外れたり(逸脱)、通勤とは関係ない目的で中断したりした場合は、その後の移動は原則として通勤とは認められません。


最終的な判断は、提出された書類や証拠に基づき、労働基準監督署が個別の事案ごとにおこないます。


認定されるかどうかは、その後の遺族(補償)等年金など、他の給付にも影響する極めて重要な問題です。

2-2.受給資格者の範囲(遺族・葬儀を行った者など)

葬祭給付を請求できるのは、「葬祭を行う者」と定められています。

これは、実際に葬儀を執りおこない、その費用を負担した人を指します。


多くの場合、故人の配偶者や子、父母といったご遺族が該当しますが、必ずしも法律上の親族に限定されるわけではありません。


具体的には、以下のような方も受給資格者となります。

  • ご遺族
    配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹など。
  • ご遺族以外の方
    内縁関係のパートナー、友人、知人など、故人と生計を別にしていた方でも、実際に葬儀を執りおこなった場合は対象となります。
  • 会社(法人)
    ご遺族がいない、またはご遺族が葬儀をおこなえない事情がある場合に、会社が社葬として葬儀を執りおこなった場合は、その会社が受給資格者となります。

重要なのは「誰が葬儀を主宰(しゅさい)し、費用を負担したか」という事実です。

後のトラブルを避けるためにも、葬儀社が発行する契約書や領収書などを必ず保管し、費用負担の事実を証明できるようにしておきましょう。

ご相談予約専用ダイヤル

0120-15-4640

受付時間 平日9:00-18:00/土曜9:00-17:00

3. 葬祭給付の支給額と算定方法

支給額は、以下の2つの式で計算した金額のうち、いずれか高い方の金額となります。

  1.  315,000円 + 給付基礎日額の30日分
  2.  給付基礎日額の60日分

この計算式により、故人の賃金が比較的低かった場合でも、最低保障額として315,000円以上の給付は確保され、賃金が高かった場合はそれに応じて支給額が増える仕組みになっています。

3-1. 給付基礎日額の仕組みと計算例

「給付基礎日額」とは、原則として労働基準法の「平均賃金」に相当する額です。

これは、労災事故が発生した日(または病気の診断が確定した日)の直前3か月間に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数(暦日数)で割って算出します。

参照「給付基礎日額」の計算式
給付基礎日額 = 直前3か月間の賃金総額 ÷ 直前3か月間の総日数

賃金に含まれるもの・含まれないもの】

  • 含まれるもの
    基本給、残業代、各種手当(通勤手当、住宅手当など)
  • 含まれないもの
    ボーナスなど3か月を超える期間ごとに支払われる賃金、結婚祝い金など臨時に支払われる賃金

例えば、直前3か月間(90日間)の賃金総額が90万円だった場合、給付基礎日額は 90万円 ÷ 90日 = 1万円 となります。

この給付基礎日額(1万円)を先ほどの支給額の計算式にあてはめます。

  1.  315,000円 + (10,000円 × 30日) = 615,000円
  2.  10,000円 × 60日 = 600,000円

この場合、金額が高い方である615,000円が葬祭給付の支給額となります。

給付基礎日額の正確な計算は、会社の賃金台帳などをもとにおこないますが、日雇いや試用期間中など、特殊なケースでは計算方法が異なる場合があります。

不明な点があれば、労働基準監督署や弁護士にご確認ください。

3-2. 給付金受け取りのシミュレーション事例

給付基礎日額によって、どちらの計算式が有利になるかが変わります。

いくつかのパターンでシミュレーションしてみましょう。

給付基礎日額計算式1
315,000円 + (給付基礎日額×30日)
計算式2
給付基礎日額×60日
支給額(高い方)
8,000円315,000円 + 240,000円 = 555,000円480,000円555,000円
10,500円315,000円 + 315,000円 = 630,000円630,000円630,000円
15,000円315,000円 + 450,000円 = 765,000円900,000円900,000円

このように、給付基礎日額が10,500円を境に、適用される計算式が変わります。

個人の生前の賃金を上記の計算式にあてはめて、受け取ることのできる金額の目安を把握しておくと、自己負担しなければならない葬儀費用の目途も立てやすくなります。

4. 請求の手順と必要書類の準備方法

葬祭給付を受け取るための具体的な手続きの流れと、準備すべき書類について解説します。

4-1. 請求に必要な書類と申請書の書き方

葬祭給付の申請には、主に以下の書類が必要です。

【必ず必要になる書類】

  1. 請求書
    これらの様式は、労働基準監督署で入手できるほか、厚生労働省のホームページからもダウンロードできます 。
  2. 死亡の事実と年月日を証明する書類
    • 死亡診断書、死体検案書、検視調書のいずれかのコピー
      または市区町村長が発行する記載事項証明書など

【場合によって必要になる書類】

  • 葬儀の費用を負担した事実を証明する書類
    葬儀業者の領収書や契約書など
  • 事業主の証明
    請求書には、災害の発生状況などについて事業主の証明を受ける欄があります。
  • その他、労働基準監督署が求める書類
    戸籍謄本など、請求者と故人との関係を証明する書類の提出を求められることがあります。

請求書には、亡くなった方の氏名、災害発生の状況、請求者の情報、振込を希望する金融機関口座などを正確に記入します。

特に、災害発生の原因や状況は、いつ、どこで、何をしていて、どのように亡くなったのかを具体的に記載します。

もし会社が事業主証明を拒否するなど、手続きに協力してくれない場合でも、申請を諦める必要はありません。

その旨を労働基準監督署に伝えれば、証明がなくても請求書を受け付けてもらえます。

記入方法に不安がある場合は、労働基準監督署の窓口で相談するか、社会保険労務士や弁護士に代行を依頼することも可能です。

書類の不備は支給の遅れに繋がるため、慎重に準備を進めましょう。

労災を会社が認めない場合でも労災保険請求はできる!被災労働者の対応方法を全解説

労働者災害補償保険制度(労災保険制度)は、業務中や通勤中に発生する労働者の負傷、疾病、障害、死亡など対して保険給付をおこなうことで、社会復帰を促進し、被災労働者やその遺族の福祉を増進することを目的にしています。 しかし、 […]

4-2. 労働基準監督署への提出から支給までの流れ

書類の準備が整ったら、亡くなった方が所属していた事業所の所在地を管轄する労働基準監督署長宛に提出します。

提出後、労働基準監督署では、提出された書類をもとに以下の点について審査をおこないます。

  • 死亡の原因が労災(業務災害または通勤災害)に該当するか
  • 書類に不備や記載漏れがないか
  • 請求者が受給資格者として妥当か

審査にかかる期間は、事案の複雑さや労働基準監督署の繁忙状況によって異なりますが、一般的には数週間から1〜2か月程度が目安です。


審査の結果、支給が決定されると、請求書に記載した指定の銀行口座に給付金が振り込まれます。

もし不支給の決定が出た場合は、その理由が記載された通知書が届きます。


この決定に不服がある場合は、審査請求、再審査請求、行政訴訟といった不服申し立ての手続きが可能です。

労災が認められない場合とは?よくあるケースから対処法まで徹底解説

仕事中や通勤途中の怪我や病気。 本来であれば「労災(労働災害)」として、国が提供する労働者災害補償保険(労災保険)による給付を受けることができます。 ただ、実際には「労災と認められない」と判断されるケースもあります。 も […]

5. 時効と請求期限を守るための注意点

労災保険の給付請求には時効があります。
これを過ぎると給付を受ける権利が消滅するため、注意が必要です。

葬祭給付の請求権の時効は、労働者が亡くなった日の翌日から起算して2年です(労働者災害補償保険法第42条 )。

  • 時効の起算点:死亡した日の翌日
  • 時効期間:2年間

故人の死亡が労災の可能性がある場合は、速やかに手続きを進めてください。

ご相談予約専用ダイヤル

0120-15-4640

受付時間 平日9:00-18:00/土曜9:00-17:00

6. 葬祭給付と他の労災給付との関係

労災で労働者が亡くなった場合、遺族の生活を支えるために、葬祭給付以外にもいくつかの保険給付が用意されています。

6-1. 遺族(補償)等年金や遺族特別支給金による補償との違い

労災で労働者が亡くなった場合、葬祭給付と混同されやすいものにのほかに支給される保険給付としては「遺族(補償)等年金」や「遺族(補償)等一時金」があります。

これらは目的や性質が異なるため、違いを正しく理解しておくことが大切です。

給付の種類目的支給形態請求できる人
葬祭給付(葬祭料)葬儀費用の補填一時金葬祭をおこなった者
遺族(補償)等年金遺族の生活保障年金個人の収入で生計を維持していた一定の範囲の遺族(配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹)のうちの最先順位者
遺族(補償)等一時金遺族(補償)等年金の受給資格者がいない場合の保障一時金一定の範囲の遺族(同上)のうちの最先順位者

葬祭給付はあくまで葬儀費用に対する一時的な給付であるのに対し、遺族(補償)等年金は、故人によって支えられていた遺族の生活を長期的に保障するための継続的な給付です。

これらの給付は、それぞれ要件を満たせば併せて受給できます。


また、これらの保険給付とは別に、社会復帰促進等事業として「遺族特別支給金(一律300万円)」や「遺族特別年金」といった制度もあります。

これらも併せて請求することができますので、忘れずに手続きをおこないましょう。

6-2. 業務外の死亡で支給される「埋葬料(埋葬費)」「葬祭費」との違い

労働者が業務外の病気やケガで亡くなった場合は、労災保険の「葬祭給付」の対象とはならず、故人が加入していた公的医療保険(健康保険、国民健康保険など)から葬儀費用に関する給付が支給されます。

(1)労災保険と医療保険の給付は二重に受給できない

最も重要な点は、死亡の原因によって適用される制度が決まります。

  • 業務災害・通勤災害が原因の場合
    → 労災保険から「葬祭給付(葬祭料)」
  • 業務外の病気やケガが原因の場合
    → 医療保険から「埋葬料」または「葬祭費」

これらは同時に両方を受け取ることはできません。

死亡の原因が業務上のものであれば、健康保険等ではなく労災保険が優先して適用されます。

(2)医療保険制度ごとの給付の違い

業務外で亡くなった場合に支給される給付は、故人が加入していた医療保険制度によって、名称、支給額、申請先が異なります。

制度労災保険健康保険(会社員・公務員など)国民健康保険(自営業者など)、 後期高齢者医療保険(75歳以上など)
死亡原因業務災害・通勤災害業務外の病気やケガ業務外の病気やケガ
給付名称葬祭給付(葬祭料)埋葬料または埋葬費葬祭費
支給額① 315,000円+給付基礎日額30日分
② 給付基礎日額60日分
(①と②の高い方)
埋葬料一律5万円
被保険者により生計を維持されていた方が申請。なお、被扶養者が亡くなった時は「家族埋葬料」として5万円が支給。
埋葬費5万円の範囲内で実費
被保険者と生計維持関係のない埋葬を行った方
自治体により異なる (例:3万円、5万円、東京23区は7万円など)
申請先労働基準監督署協会けんぽ、健康保険組合、共済組合など市区町村の役所(国保・後期高齢者の窓口)

(3)「埋葬料」と「埋葬費」の違い(健康保険の場合)

会社員などが加入する健康保険では、受給権者によって名称と金額が変わります。

  • 埋葬料(一律5万円)
    故人(被保険者)によって生計を維持されていた遺族(配偶者、子、父母など)が葬儀を行った場合に支給されます。
  • 埋葬費(5万円の範囲内の実費)
    「埋葬料」を受けられる遺族がいない場合、実際に葬儀費用を負担した人(生計維持関係のない親族、友人、会社など)に、かかった実費(上限5万円)が支給されます。

(4)労災認定された場合の注意点

もし、死亡原因が業務外か労災か判断がつかず、先に健康保険の「埋葬料」や国民健康保険の「葬祭費」を受け取った後に、労災(業務災害または通勤災害)と認定された場合は、注意が必要です。


その場合、すでに受け取った医療保険からの給付金(埋葬料や葬祭費)は返還し、改めて労災保険の「葬祭給付(葬祭料)」を労働基準監督署に請求します。


死亡原因が業務に関連する可能性がある場合は、二重受給や返還の手間を避けるためにも、まず労働基準監督署に相談してください。

7. 労災の葬祭給付に関するよくある質問(Q&A)

最後に、葬祭給付に関してよく寄せられる質問とその回答をまとめました。

Q1. 会社が労災申請に協力してくれません。どうすればよいですか?

A1. 会社が手続きに非協力的な場合でも、労働者やその 遺族等が直接、労働基準監督署に申請することが可能です。

請求書には事業主の証明欄がありますが、会社が証明を拒否した場合は、その旨を労働基準監督署に説明すれば、証明なしで受け付けてもらえます。
あきらめずに労働基準監督署や弁護士にご相談ください。

Q2. 葬儀費用が、支給される葬祭給付の額を上回りました。差額は請求できますか?

A2. 葬祭給付は、実際の葬儀費用にかかわらず、定められた計算式に基づいて支給される定額の給付です。

そのため、実際の葬儀費用が支給額を上回った場合でも、差額は追加で支給されません。
ただし、労災事故について会社に安全配慮義務違反などがあった場合は、葬祭給付と実際に要した葬儀費用の差額分の葬儀費用を含めた損害賠償を会社に対して別途請求できる場合があります。

Q3. 故人はアルバイトでしたが、葬祭給付の対象になりますか?

A3. はい、対象になります。

労災保険は、雇用形態にかかわらず、労働契約に基づいて働くすべての方が対象です。

したがって、アルバイトやパートタイマー、契約社員の方であっても、業務災害や通勤災害で亡くなった場合には、葬祭給付をはじめとする労災保険の給付を受けられます。

8. まとめ

本記事では、労災保険の葬祭給付について解説しました。

【この記事の重要ポイント】

  • 葬祭給付は、業務または通勤が原因で亡くなった方の葬儀を行う方に支給される一時金です。
  • 支給額は「315,000円+給付基礎日額30日分」と「給付基礎日額60日分」の高い方で決まります。
  • 請求先は会社の所在地を管轄する労働基準監督署で、時効は死亡した日の翌日から2年です。
  • 遺族(補償)等年金など他の労災給付と併せて受給できますが、健康保険の埋葬料との二重受給はできません。

葬祭給付の手続きや、会社の対応、労災認定、損害賠償請求などでお悩みの場合は、労災問題に詳しい弁護士にご相談ください。

ご遺族が正当な補償を受けられるようサポートいたします。

労災保険給付の基礎知識と申請手続き
1.療養(補償)給付と申請手続き
2.休業(補償)給付と申請手続き
3.障害(補償)給付と申請手続き 
4.遺族(補償)給付と申請手続き ※準備中
5.葬祭料給付と申請手続き
6.傷病(補償)給付と申請手続き  ※準備中
7.介護(補償)給付と申請手続き ※準備中

ご相談予約専用ダイヤル

0120-15-4640

受付時間 平日9:00-18:00/土曜9:00-17:00

この記事を監修した弁護士
弁護士 渡辺 伸樹

渡辺 伸樹
(わたなべ のぶき)
弁護士法人一新総合法律事務所 理事・長野事務所長・弁護士

出身地:新潟県上越市
出身大学:中央大学法科大学院修了
主な取り扱い分野は交通事故、労災など。
事故賠償チームに所属し、保険代理店向けのセミナー講師を多数務めた実績があります。