傷病手当金と失業手当は両方もらえる?違い・受給条件・切り替え手順

本記事では、心身の不調による退職を検討されている方へ向けて、以下のポイントを徹底解説します。
- 傷病手当金と失業手当の違いや受給条件
- 受給期間の延長申請を用いた退職後の切り替え手順
- 心身の不調による退職者が「特定理由離職者」として手厚いサポートを受ける条件
退職後の生活費に関する疑問を解消し、安心して次の一歩を踏み出せるようまとめました。
- 1. 1. 結論:傷病手当金と失業手当は同時受給できない
- 2. 2.同時受給できない理由(制度の目的と支給要件の違い)
- 3. 3.傷病手当金とは
- 3.1. 3-1.傷病手当金の受給条件
- 3.2. 3-2.傷病手当金の支給額と支給期間
- 3.3. 3-3.退職後も傷病手当金を受給できる条件
- 3.4. 3-4.傷病手当金の申請方法(必要書類・期限・流れ)
- 4. 4.失業手当(雇用保険の基本手当)とは
- 4.1. 4-1.失業手当の受給条件(働ける状態・求職活動)
- 4.1.1. 病気による退職は「特定理由離職者」になる可能性
- 4.2. 4-2.失業手当の給付額と所定給付日数
- 4.3. 4-3. 失業手当の申請手続き(ハローワークの流れ)
- 5. 5.傷病手当金と失業手当の違い(対象・要件・窓口)
- 6. 6.どちらを選ぶべきかの判断基準:今、働けるかどうか
- 6.1. 6-1.傷病手当金がおすすめのケース
- 6.2. 6-2.失業手当がおすすめのケース
- 7. 7.退職後に両方もらう方法①:傷病手当金→失業手当(受給期間延長)
- 7.1. 7-1.失業手当の受給期間延長の条件
- 7.2. 7-2. 受給期間延長の手続き方法と必要書類
- 8. 8.退職後に両方もらう方法②:失業手当→傷病手当金(受給中の切り替え)
- 9. 9.切り替えのタイミング(退職後すぐ働ける・30日以上働けない)
- 10. 10. 受給額の比較と総額シミュレーションの考え方
- 10.1. 10-1. 具体的なシミュレーション例(月給30万円の場合)
- 11. 11. 傷病手当金の受給が調整・不支給になるケース
- 12. 12. 失業手当が止まる・受けられないケース
- 13. 13. 手続き前の注意点(退職日・欠勤・受診・医師の証明)
- 14. 14. 併用しやすい・注意が必要な制度(障害年金など)
- 15. 15. よくある質問
- 15.1. Q. 傷病手当金と失業手当、結局どの選択肢が一番得ですか?
- 15.2. Q. 同時に両方申請して受給するとバレますか?
- 16. 16. まとめ
1. 結論:傷病手当金と失業手当は同時受給できない
傷病手当金と失業手当(雇用保険の基本手当)は、どちらも生活を支える大切な給付です。
しかし、健康保険法および雇用保険法の規定上、それぞれの給付目的が相反するため、同じ期間に同時受給することはできません。
給付の前提が異なるため、重複受給は認められないのです。
ただ、条件を満たせば「時期をずらして、順番に受給する」ことは十分に可能です。
手順として、退職後すぐには働けない期間に「傷病手当金」を受給して治療に専念し、回復後に「失業手当」へ切り替えます。
逆に、求職活動中に体調を崩した場合は、失業手当の手続きを一時停止して傷病手当金へ切り替え、治癒後に残日数の支給を再開させます。
「両方同時にもらえないか」と状態を偽って、ハローワークの認定日に申告すると不正受給とみなされ、全額返還に加え、最大で受給額の2倍の納付を命じられる(いわゆる3倍返し)など、厳しいペナルティの対象となります。
いずれを受給できるのか判断に迷った場合は、行動する前に社会保険労務士などの専門家や、ハローワーク・健康保険組合の窓口へご相談ください。
2.同時受給できない理由(制度の目的と支給要件の違い)
両制度は「想定している状態」が正反対であり、支給要件が相反するため、同時受給は制度上成立しません。
| 制度名 | 前提条件 | 制度の目的・対象 |
| 傷病手当金 | 病気やケガで働けない(労務不能)こと ※医師の証明が必要 | 就職活動を行うことができない人のための所得保障 |
| 失業手当 | 働く意思と能力があるのに仕事に就けないこと ※現在健康で、積極的に求職活動をしていること | 労働者の生活と再就職を支えるための給付 |
働けないのであれば失業手当の要件は満たせず、働けるのであれば傷病手当金の要件(労務不能)から外れます。
同じ期間に両方の条件を満たすことは論理的に矛盾するのです。
弁護士法人一新総合法律事務所
3.傷病手当金とは
傷病手当金は、健康保険法(第99条)に基づき、被保険者が病気やケガで働けない場合に、療養中の生活を下支えするための給付です。
会社員などが加入する社会保険(健康保険)から支給される制度で、目的は療養のために働けない期間の生活保障です。
「今の健康状態で自分の仕事ができるか」が審査のポイントとなります。
傷病手当金の審査では、医師の判断と会社の出勤・給与状況を合わせて確認されるため、医師に具体的な業務内容を正確に伝えることが重要です。
診断名を伝えるだけでなく、実際の業務内容までの伝え方を工夫する必要があります。
うつ病や適応障害など診断名が同じでも、実際の職種や業務内容によって「労務不能」の判断は異なります。
なお、業務中や通勤中のケガ・病気が原因の場合は、原則として労災保険の対象となり、傷病手当金の対象外です。
3-1.傷病手当金の受給条件
受給するための基本的な要件は以下の4つです。
- 業務外の病気やケガで療養していること
- 療養のために労務不能であること
- 連続する待期期間(原則3日)を含めて休業していること
- 休業期間中に給与の支払いがない(または減額されている)こと
待期期間の3日は連続している必要があり、土日祝や有給休暇などの所定休日を挟んでもカウントされます。
待期が完成すると、4日目からが支給対象となります。
3-2.傷病手当金の支給額と支給期間
傷病手当金の計算方法は、次の通りです。
| 支給開始日以前12か月間の標準報酬月額の平均額 ÷ 30日 × 2/3(3分の2) |
この算出方法により、実質的に手取り月収に近い額が支給されるケースが多いです。
支給期間は、支給開始日から通算して最長「1年6か月」です(健康保険法第99条第4項)。
厚生労働省の資料によれば、令和4年(2022年)1月の法改正により、途中で一時的に復職して給付を受けなかった期間があっても、支給開始日から通算して1年6か月分が支給される仕組みとなり、より長く利用しやすくなりました。
給与が一部支払われる場合でも、傷病手当金の日額より少なければ、その差額が支給されます。
3-3.退職後も傷病手当金を受給できる条件
退職して健康保険の資格を喪失しても、「資格喪失後の継続給付」として、引き続き受け取れる場合があります(健康保険法第104条)。
以下の条件をすべて満たす必要があります。
- 退職日(資格喪失日の前日)までに継続して「1年以上」健康保険の被保険者期間があること
- 療養のために労務不能であること退職時点で傷病手当金を受給している、または受給できる状態(待期3日間が完成している)であること療養のために労務不能であること
- 退職日に出勤していない(労務に服していない)こと
- 資格喪失後も、引き続き同一の病気やケガの療養のために労務不能の状態であると医師が診断していること
実務上、最も失敗が多いのが「退職日の出勤」です。
挨拶や引き継ぎのために退職日当日に1日でも出勤扱いになると、継続給付の要件を満たさなくなり、退職後の支給が打ち切られます。
挨拶や引き継ぎは退職日よりも前に済ませておき、退職日は出勤せず療養に専念するようにしてください。
3-4.傷病手当金の申請方法(必要書類・期限・流れ)
申請先は、在職中に加入していた健康保険(協会けんぽまたは健康保険組合)です。
傷病手当金支給申請書を用意し、「本人記入欄」「事業主記入欄」「医師記入欄(療養担当者意見書)」をすべて揃えて申請時に提出します(※退職後の期間について申請する場合は「事業主記入欄」の証明は不要です)。
医師の記入内容(労務不能期間)と会社の記入内容(欠勤期間)に食い違いがあると審査が遅れるため、突き合わせて確認しておくことをお勧めします。
通常、各月の給与の締め日が終わった後に、毎月(または複数月まとめて)申請を行います。
4.失業手当(雇用保険の基本手当)とは
失業手当は雇用保険制度の大きな柱となる給付です。
失業手当(基本手当)は、雇用保険法に基づく給付で、離職後に働く意思と能力があり求職活動を行う人の、再就職までの生活を支えるためのものです。
単に「離職した(失業中である)」だけでは受給の条件には該当しません。
健康状態で働ける能力があり、ハローワークに求職の申し込みを行い、継続的に活動実績を示す必要があります。
傷病で働けない期間に無理に失業手当の申請を進めようとすると、認定条件を満たせずに後からトラブルになるため、まずは後述する「受給期間の延長申請」を検討してください。
4-1.失業手当の受給条件(働ける状態・求職活動)
主な要件は以下の通りです。
- 就職しようとする意思と能力があること
- 求職の申込みをして積極的に求職活動を行っていること
- 離職の日以前の2年間に、雇用保険の被保険者期間が通算して12か月以上あること
ただし、会社の倒産や解雇による離職者(特定受給資格者)や、病気・ケガなど正当な理由による離職者(特定理由離職者)については、要件が緩和され「離職の日以前の1年間に被保険者期間が通算して6か月間以上」あれば受給可能になります。
特定理由離職者は「正当な理由のある自己都合退職」をした人を指し、対象となる範囲はハローワークが個別に判断します。
病気による退職は「特定理由離職者」になる可能性
病気やケガ、うつ病などの心身の不調が原因で退職した場合、ハローワークで「特定理由離職者」として認められる可能性があります。
特定理由離職者になると、以下のような大きなメリットがあります。
①給付制限の免除
正当な理由のない自己都合退職の場合、2025年4月の法改正により給付制限期間は原則1か月に短縮されました(過去5年以内に3回以上自己都合退職をしている場合は3か月)。
これに対し、特定理由離職者と認定されれば給付制限そのものが課されず、7日間の待期期間後、最短で支給対象となります。
(※なお、離職前後に一定の教育訓練を受講した場合に給付制限が解除される制度や、倒産・解雇による「特定受給資格者」も給付制限なく受給できる仕組みがあります)
② 所定給付日数の延長
雇用保険の加入期間や年齢によっては、一般の離職者よりも給付日数が手厚くなる場合があります(国民健康保険料の軽減措置が受けられる場合もあります)。
退職後の収入減に備え、家族の扶養に入ることで健康保険料の負担を抑える選択肢もあります。
医師の診断書や証明書などの提出が求められるため、退職前から主治医に相談しておきましょう。
4-2.失業手当の給付額と所定給付日数
給付額(基本手当日額)は、離職直前6か月の賃金日額に給付率(50〜80%、60歳〜64歳は45〜80%)を掛けた金額です。
年齢ごとに上限額が定められています。
毎年8月1日に改定されるため、最新の正確な金額はハローワークでご確認ください。
| 年齢区分 | 基本手当日額の上限額 |
| 30歳未満 | 7,255円 |
| 30歳以上45歳未満 | 8,055円 |
| 45歳以上60歳未満 | 8,870円 |
| 60歳以上65歳未満 | 7,623円 |
所定給付日数は、離職理由、年齢、雇用保険の加入期間によって「90日〜330日」の幅で決まります。
ただし、障害者など「就職困難者」に該当する場合は、最長360日まで延長されます。
たとえば、特定受給資格者等に該当し、45歳以上60歳未満で加入期間が20年以上ある場合、最大330日間の支給となります。
加入期間が短い場合は120日や180日となるケースもあります。
一方で、自己都合退職の場合は2025年4月以降の新基準において、原則として7日間の待期期間を経た後、約1ヶ月間の給付制限期間を経て90日〜150日の支給となります。
4-3. 失業手当の申請手続き(ハローワークの流れ)
基本の流れは以下の5つのステップです。
- ハローワークへ離職票の提出と求職申込み
- 受給資格の決定と待期期間(7日間)
- 雇用保険受給説明会への参加
- 失業認定(原則4週に1回、窓口で求職活動実績を報告)
- 認定後、指定口座へ振り込み
受給資格が決定すると、受給資格決定通知書とあわせて「雇用保険受給資格者証」が交付され、以降はこれを提示して手続きを進めます。
必要書類は以下の通りです。
- 雇用保険被保険者離職票-1、雇用保険被保険者離職票-2
- 個人番号確認書類
例:マイナンバーカード、通知カード、個人番号の記載のある住民票(住民票記載事項証明書)等 - 本人確認書類
例:運転免許証、運転経歴証明書など - 写真
例:最近の写真、正面上三分身(上半身)、縦3.0cm×横2.4cmを2枚) - 本人名義の預金通帳(またはキャッシュカード)
5.傷病手当金と失業手当の違い(対象・要件・窓口)
混同しやすい2つの制度の違いを、対象者・受給の前提・受給期間ごとに比較できるよう表にまとめました。
| 項目 | 傷病手当金 | 失業手当(基本手当) |
| 管轄・窓口 | 健康保険組合・協会けんぽ等 | ハローワーク |
| 対象者 | 在職中または退職後の健康保険被保険者 | 退職後の雇用保険被保険者 |
| 受給前提 | 病気やケガで「働けない」状態 | 健康で「働ける」状態 |
| 必要な行動 | 医師の療養担当者意見書の提出 | 継続的な求職活動実績の申告 |
| 受給期間 | 支給開始日から通算最長1年6か月 | 原則90日〜最大330日 |
なお、就職困難者に該当する場合は失業手当の受給期間が360日まで延びるなど、細かな例外もあります。
弁護士法人一新総合法律事務所
6.どちらを選ぶべきかの判断基準:今、働けるかどうか
迷ったときの判断のポイントはシンプルです。
「現時点で就労可能か」「実際に求職活動ができるか」です。
6-1.傷病手当金がおすすめのケース
医師から就労不可と言われている、通勤や面接のストレスで症状が悪化する懸念がある(うつ病など)場合は、「傷病手当金」を選択するべきケースです。
治療計画を優先することで、結果的に再就職後の定着率も上がります。
療養が長引く場合は、受給期間の延長申請をしておかないと、回復後に失業手当を受け取れる日数が減ってしまうため、早めの手続きが欠かせません。
一方で、傷病手当金を選ぶ場合は、治療に専念する間は求職活動ができないことから、再就職までの期間が延びやすいというデメリットもあります。
6-2.失業手当がおすすめのケース
退職後すぐにでも働ける状態まで回復しており、応募や面接が現実的に行えるなら失業手当が向いています。
医師から「もう就労可能である」と診断された場合は、傷病手当金の審査には通らないため、失業手当の受給とハローワークの転職支援を活用して再就職に集中する方が合理的です。
キャリア相談など、ハローワークの再就職活動支援を積極的に活用することを検討します。
ただし、無理に「働ける」と申告して受給すると、体調悪化時に不正受給とみなされるリスクがあるため、実際に就労可能な状態かどうかを慎重に見極める必要があります。
7.退職後に両方もらう方法①:傷病手当金→失業手当(受給期間延長)
退職後に両方の給付を無理なく受け取るには、主に2つのパターンがあります。
退職後しばらく働けない場合に、実務上最も推奨される手順です。
まず傷病手当金で療養しつつ、失業手当は「受給期間延長」を行って権利を維持します。
7-1.失業手当の受給期間延長の条件
失業手当の受給期間は、原則として「離職日の翌日から1年間」です。
療養が長引くと、この期限内に所定の支給日数を受け取り切れなくなるリスクがあります。
しかし、病気、ケガ、妊娠、出産、育児、親の介護などの理由で「引き続き30日以上職業に就くことができない」場合、申請により受給期間を最長3年間延長できます(雇用保険法第20条)。
元々の1年と合わせ、合計で最大4年間まで受給枠を確保できるため、療養に専念しながら受給の権利を失わずに済みます。
逆に、30日に達する前(29日以内)に回復して働ける状態に戻れば、延長申請をせずに通常の失業手当の手続きに進んで問題ありません。
受給期間を延長しておけば、所定給付日数分の失業手当を、回復後にまとめて受け取れます。
7-2. 受給期間延長の手続き方法と必要書類
受給期間延長の手続きの期限は、原則として「延長後の受給期間の最後の日まで」可能です。
ただ、トラブルを防ぐため、離職後に引き続き30日以上働けなくなった段階で速やかにハローワークへ申請することをお勧めします。
必要書類は、離職票、受給期間延長申請書、および医師の診断書などです。
体調が悪く来所が困難な場合は、郵送や代理人(委任状が必要)による申請も可能なため、事前にハローワークへ相談してください。
弁護士法人一新総合法律事務所
8.退職後に両方もらう方法②:失業手当→傷病手当金(受給中の切り替え)
失業手当を受給して求職活動をしている途中で、体調を崩して働けなくなった場合は、こちらの流れになります。
この場合、失業手当の認定条件である「働ける状態」を満たさなくなるため、ハローワークへ状態の変化を申告し、失業手当を一時停止します。
そのうえで、要件を満たせば雇用保険の「傷病手当」の申請を行います。
なお、この場合の「傷病手当」は、在職中のケガや病気を対象とする「健康保険の傷病手当金」とは別の制度です。
回復して再び働ける状態になれば、ハローワークで手続きをして失業手当の残日数の支給を再開させます。
9.切り替えのタイミング(退職後すぐ働ける・30日以上働けない)
退職直後に働けるか、30日以上働けないかで、優先すべき手続きが変わります。
具体的な切り替え方法は、退職後の経過日数によって異なります。
| あなたの状況 | 優先すべき手続き・対応 |
| 退職後すぐ働ける場合 | ハローワークで失業手当の通常手続きを優先する。 |
| 30日以上働けない見込みの場合 | 健康保険の傷病手当金を申請しつつ、退職後30日が経過した段階でハローワークへ行き「失業手当の受給期間延長申請」を行う。 |
退職後における制度の切り替えタイミングについては、次の通りです。
【参照】退職後の切り替えの流れ
| [ STEP 1 ] 退職日前~退職日 │ ・連続3日間の待期期間を完成させる │ ・退職当日は出勤しない(※有休または欠勤扱いにする) ▼ [ STEP 2 ] 退職~退職後30日間 │ ・自宅等で療養に専念する │ ・健康保険の「傷病手当金」を受給(申請)する ▼ [ STEP 3 ] 退職後30日経過後(~1か月以内推奨) │ ・ハローワークで「失業手当の受給期間延長申請」を行う │ ・受給期間枠を最長4年間まで確保する ▼ [ STEP 4 ] 療養期間(最長1年6か月) │ ・引き続き「傷病手当金」を受けながら治療・回復に専念 │ ・医師から「就労可能(復職・再就職OK)」の診断を受ける ▼ [ STEP 5 ] 傷病手当金の受給終了・切り替え │ ・ハローワークへ行き「受給期間延長」を解除する │ ・求職の申し込みを行い「失業手当(基本手当)」を受給開始 ▼ 再就職(または再就職手当の受給) |
10. 受給額の比較と総額シミュレーションの考え方
「結局どちらがお得なのか?」は、年齢や賃金水準、離職理由で変わります。
「日額」だけで比較するのではなく、「受給金額の総額」と「無収入期間の有無」で比較するのが合理的です。
10-1. 具体的なシミュレーション例(月給30万円の場合)
月給(標準報酬月額)30万円、30歳、特定理由離職者(加入期間5年)のケースでシミュレーションします。
| 比較項目 | 傷病手当金 | 失業手当(基本手当) |
| 受給額の計算式・条件 | 30万円÷30日×2/3 | 賃金日額10,000円に対し、給付率約60%程度 (※給付率は約50〜80%で変動/年齢・年度により変動) |
| 日額(1日当たり)の目安 | 約6,667円 | 約6,000円(基本手当日額) |
| 1カ月当たりの受給額 | 約200,000円(20万円) ※30日計算 | 約168,000円 ※28日計算 |
| 支給日数・総額の目安 | 最長1年6か月(通算) | 総額:約540,000円 ※特定理由離職者のため所定給付日数は90日 |
上記のように、月単位での受給額は傷病手当金の方が高く、最長1年6か月受給できます。
療養中は無理せず傷病手当金を優先し、回復後に失業手当を受給するルートが、最も生活を安定させる方法です。
また、早期に再就職できた場合は失業手当の残日数に応じて「再就職手当」を受け取れる制度もあります。
11. 傷病手当金の受給が調整・不支給になるケース
傷病手当金は、他の収入や給付がある場合は減額・不支給となります。
| ケース | 詳細 |
| 給与が支払われている場合 | 会社から傷病手当金の日額以上の休業手当や給与額が支払われている間は支給されません(休業手当が傷病手当金の日額と同額以上の場合を含みます)。 |
| 労災保険から休業補償給付を受けている場合 | 業務上や通勤中のケガ・病気が原因の場合、労災が優先されます。 |
| 出産手当金を受けている場合 | 傷病手当金より出産手当金が優先されます。 |
| 障害厚生年金等を受給している場合 | 同一の傷病で障害年金を受け取れる場合は、原則として傷病手当金は支給されません(年金額が傷病手当金より少ない場合は差額支給)。 |
労災の休業補償と傷病手当金の違いは?併用できる?専門家が徹底解説
はじめに 勤務中や通勤中の事故、あるいは業務が原因の病気で働けなくなったとき、「これからの生活費はどうしよう…」という不安は非常に大きいものです。 そんな時に労働者の生活を支える制度として、労災保険の「休業(補償)給付」 […]
弁護士法人一新総合法律事務所
12. 失業手当が止まる・受けられないケース
失業手当は「求職活動の継続」が条件のため、以下のケースで支給が止まります。
| ケース | 詳細 |
| 体調不良で働けない状態になったのに申告しなかった場合 | 実際には失業状態(働ける状態)ではないにもかかわらず申告しなかった場合、後から発覚すると不正受給となります。 |
| 求職活動実績が足りない、認定日にハローワークへ行かない場合 | その認定期間の給付は受けられません。 |
| アルバイトや副業をしたことを申告しなかった場合 | 少額の収入や無報酬のボランティアであっても、労働日にカウントされるため正確な申告が必要です。 |
13. 手続き前の注意点(退職日・欠勤・受診・医師の証明)
退職前後のわずかな行動の差で、数百万円単位の手当を受け取れなくなるリスクがあります。
退職前に以下の点をチェックしておきましょう。
| チェック項目 | 主な理由・リスク | 必要な対応・対策 |
| ① 退職日の出勤は絶対に避ける | 挨拶や引き継ぎ程度であっても「出勤」とみなされると、退職後の傷病手当金(継続給付)を受け取る資格を失うため。 | 有給休暇の消化や欠勤扱い(病気休業)になるよう、事前に勤務先と調整しておく。 |
| ② 待期期間(連続3日間)を完成させる | 連続した3日間の休み(待期)+4日目以降も休業(労務不能)という実績が、傷病手当金の支給条件となるため。 | 退職日より前に、有給・公休・欠勤を組み合わせて「連続3日以上の休み」を作る。 |
| ③ 早めに医療機関を受診する | 退職後に初めて受診した場合、「在職中に働けない状態であったこと」を医師に証明してもらうのが極めて困難になるため。 | 在職中の段階で受診し、初診日や療養・労務不能期間などについて医師に診察・記録してもらう。 |
14. 併用しやすい・注意が必要な制度(障害年金など)
長期化する病気やケガでは、「障害年金(障害基礎年金・障害厚生年金)」の活用や、精神疾患による通院医療費の自己負担を軽減する「自立支援医療制度」、障害者手帳の取得も視野に入ってきます。
傷病手当金は「最長1年6か月」で終了しますが、障害年金は認定されれば長期的な所得保障になります。
ただし、同一の傷病で傷病手当金と障害厚生年金を同時に受け取る場合は、原則として障害厚生年金が優先されます。
年金額が傷病手当金の額を下回るときはその差額が傷病手当金として支給されるなど、複雑な併給調整のルールがあります。
受給期間が終了する半年ほど前から、社会保険労務士などの専門家や年金事務所に相談し、制度をまたいだ準備を始めることが重要です。
15. よくある質問
Q. 傷病手当金と失業手当、結局どの選択肢が一番得ですか?
A. 金額的な「得」よりも、現在のあなたの「健康状態(働けるかどうか)」で決まります。
無理をして失業手当を申請しても、認定要件を満たせずに支給が止まるリスクがあります。
最も損をしないのは、働けない間は「傷病手当金」を受けながら失業手当の「延長申請」を行い、回復後に「失業手当」を受け取る順番です。
また、65歳以上で退職した場合は失業手当ではなく「高年齢求職者給付金」という一時金の扱いになるなど、年齢区分によるルールの違いにも注意が必要です。
Q. 同時に両方申請して受給するとバレますか?
A. ハローワークと健康保険(協会けんぽ・健康保険組合等)は、必要に応じて情報照会を行うことができる仕組みがあるため、発覚するリスクが高いといえます。
両制度は「働ける状態」と「働けない状態」という、相反する条件を持つため、同時受給を狙うことはどちらかに対して虚偽の申告を行っていることは明らかです。
悪質な不正受給とみなされた場合、給付金の返還だけでなく、厳しい罰則が科されるため絶対にしないでください。
16. まとめ
傷病手当金と失業手当は、同じ期間に同時受給することはできません。
しかし、正しい順番で手続きをとることで、その間の生活の不安を解決し、両方の制度を無理なく最大限に活用することができます。
| 体調・状況 | 対応・手続き |
| 今の体調ですぐに働けない | 傷病手当金を申請し、退職後30日を過ぎたらハローワークで失業手当の「受給期間延長」を行う。 |
| 十分に回復し、すぐに働ける | ハローワークで失業手当の通常申請を行う。 |
手続きで損をしないためには、退職前の受診、連続3日間の待期期間の完成、そして「退職日に出勤しないこと」が重要です。
現在の心身の状態に合わせた最適な制度の選択を行うことで、収入面の心配を減らしながら安心して治療に専念し、今後の働き方や万全な状態での再就職を目指すことができます。
手続きや勤務先の対応で悩んだ場合は、一人で抱え込まず、早めに公的窓口や、労働問題に詳しい弁護士・社会保険労務士などの専門家に気軽にご相談ください。
一新総合法律事務所では、労災に関する初回無料法律相談を実施しています。
ご相談では、弁護士が事情を丁寧にお伺いし、① 具体的な解決策のご提案、② 解決までの見通しの説明、③ 不安・疑問の解消などのお手伝いをおこなっています。
法律相談は事前予約制です。
まずは電話、相談予約フォームなどご都合の良い方法で、お気軽にお問い合わせください。
弁護士法人一新総合法律事務所



