労災の症状固定(治ゆ)とは?補償と手続きをわかりやすく解説

労災で治療を続けても「これ以上の改善が見込めない」と判断される状態を、労災保険(労働者災害補償保険)では「治ゆ(症状固定)」として扱います。

これは治療(療養)に関する給付が一区切りとなり、後遺障害の補償へ進む重要な分岐点です。


本記事では、症状固定の意味や決まり方、受けられる給付制度(障害給付や介護給付等)、申請手続きの流れや損害賠償との関係を解説します。

1.症状固定(治ゆ)の基本

症状固定(治ゆ)は、労災保険の給付内容が切り替わるタイミングです。


「医療としての治療」と「制度上の給付」の区切りは必ずしも一致しません。

医療効果や治療効果による症状改善の見込みがないと判断された段階で、治療を支える仕組みから、残った障害を支える仕組みへと移行します。

1-1.症状固定の意味

厚生労働省の定義において、労災保険の「治ゆ(症状固定)」は、ケガや病気が完全に治りきる「完治」という意味ではありません。


医学的にみて治療の効果が期待できず、これ以上の改善が見込めない、頭打ちの状態を指します。


そのため、痛みやしびれなどの後遺症が残っていても「治ゆ(症状固定)」と診断される場合があります。


重要なのは、症状固定は「残った症状が後遺障害としてどの程度か」を評価する分岐点になるということです。

1-2.症状固定が重要とされる理由

症状固定が重要なのは、療養(治療)に関する給付が原則としてこの時点で区切られ、補償の中心が「後遺障害の認定と給付」へ切り替わるからです。

つまり、症状固定前と後で受けるべき労災保険給付の内容が変わります。


特に被災労働者にとって影響が大きいのは「休業補償(休業補償給付)」の扱いです。

症状固定となると、原則として休業補償は打ち切りとなります。

ここから先は、認定された等級に応じた障害補償給付によって経済的なサポートを受けることになります。


また、労災給付には申請期限(時効)があります。

たとえば障害補償の請求は、症状固定日の翌日から5年で時効にかかるため、症状固定後に何もしないまま時間が経つことは大きなリスクです。

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1-3.症状固定は誰が決める?医師と労基署の役割

症状固定の判断をおこなうのは主治医です。

医学的な観点から、症状が安定しているか、治療継続で改善が見込めるかを見立てたうえで、症状固定日を明記した診断書の作成にも関与します。


一方で、労災保険として給付を出すか、後遺障害等級をどう認定するかは労働基準監督署(労基署)が提出資料に基づいて判断します。

医師の診断書は極めて重要ですが、それだけで自動的に等級が決まるわけではありません。

判断が分かれやすいのは、画像所見などの裏付けが弱い痛みやしびれ等の訴えや、通院頻度が少なく経過が追いにくいケースです。


また、労基署の審査では、提出書類との整合性も厳しく見られます。

症状と検査、生活上の支障が矛盾なく、つながる形で必要書類の記載内容をそろえることが後遺障害の認定にあたり重要なポイントになります。

2.症状固定の時期と目安

症状固定のタイミングは傷病の種類や回復経過で異なり、早すぎても遅すぎても不利益が出ることがあります。

症状固定の時期は一律ではありません。

骨折や靱帯損傷のように画像や機能検査によって「回復の推移を客観的に把握しやすい」傷病もあれば、神経症状や慢性疼痛のように自覚症状が中心で「症状が固定したと判断する客観的な裏付け(他覚的所見)を得にくい」傷病もあり、同じ傷病名でも個人差が大きいのが実情です。


早すぎる症状固定は、必要な治療やリハビリの機会を失いやすく、後遺障害の評価に必要な検査・所見が不十分なまま認定手続きに入るリスクがあります。

逆に遅すぎる症状固定は、改善が見込めない治療を続けてしまい、手続き開始が遅れて時効管理や生活設計に悪影響が出ることがあります。


実務上の目安は、症状が一定期間大きく変わらないこと、医師が治療目標を「改善」から「維持・疼痛管理・生活機能の調整」へ切り替えていること、検査結果や機能検査が労基署において後遺障害等級を適正に審査・評価できる形で揃っていることです。

主治医と相談する際は、今後の治療でどの指標がどの程度改善する見込みなのかを具体的に確認すると、症状固定(治療終了)とする判断の納得感が高まります。

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3.症状固定後に受けられる労災保険給付

症状固定後は、療養(補償)給付から「後遺障害や介護、再発予防等」に関する制度へ重点が移ります。

代表的な給付・制度と対象者、ポイントを解説します。


症状固定後は、残った障害の程度や生活上の支障に応じて、受けられる制度が分かれます。

中心となるのは後遺障害等級の認定と、それに基づく障害補償給付です。

加えて、目的ごとに以下の制度が用意されています。

制度名主な目的・概要対象となるケースの目安
介護(補償)給付重度の障害により、日常生活において介護が必要となった場合の費用を一部支給する障害(補償)年金の受給者(第1級、または第2級の精神神経・胸腹部臓器の障害など)であって、実際に常時または随時介護が必要な場合
アフターケア制度労災のケガや病気が「治ゆ(症状固定)」した後に、再発・悪化や二次的疾病を防ぐための診察や保健指導を無料で受けられる脊髄損傷や脳の器質性障害など、厚生労働省が定める20種類の対象傷病に該当する場合
義肢等補装具費支給制度失われた身体機能を補い、日常生活や就労への復帰をスムーズにするための器具の購入・修理費用を支給する義肢、装具、車いす、義眼などの補装具が必要と認められる場合
外科後処置障害(補償)給付を受けた後に、その残った後遺障害の程度を軽減したり、義肢の装着をしやすくするための手術や診療を無償で受けられる後遺障害の軽減や義肢装着などのための手術・処置の目的が明確で、労災病院等の契約病院で実施する場合

制度は「何に困っているか」で選ぶのがコツです。

痛みの管理や経過観察ならアフターケア、移動や日常生活動作の補助なら補装具、機能改善や装着のための手術なら外科後処置というように、症状固定後も必要な支援を組み合わせていきます。

3-1.障害(補償)給付

障害補償給付は、症状固定後に一定の障害が残った場合に支給される労災保険給付です。

業務上の業務災害の場合は「障害補償給付」、通勤災害の場合は「障害給付」と呼ばれます。

障害の程度は1級から14級までの等級で評価され、数字が小さいほど重くなります。


補償の受け取り方は、認定される等級によって以下のように明確に分かれます。

後遺障害等級支給方法補償の受け取り方と特徴
1級〜7級年金(定期支給)それぞれの等級に応じた日数分の補償(例えば1級は給付基礎日額の313日分、7級は131日分)が、偶数月の15日に、直近2か月分ずつ生涯にわたって支給されます。
8級〜14級一時金(一括支給)認定された等級に応じた日数分の補償が、まとまった金額(例えば9級は給付基礎日額の391日分、12級は156日分、14級は56日分)として一括で1回のみ支給されます。

どちらの支給方法であっても、具体的な給付額はそれぞれの等級に応じた「支給日数」に、労働者個人の「給付基礎日額(事故発生前3ヶ月間の給料をベースに算定した1日あたりの賃金)」を掛け合わせて計算されます。


また、障害補償給付には年金や一時金とは別に「障害特別支給金」という一時金制度もあり、たとえば第1級に該当した場合は342万円が特別に支給されます。


後遺障害等級の認定等で差が出やすいのは後遺障害診断書の中身です。

症状名だけでなく、可動域制限の角度、筋力、感覚検査、画像所見、仕事や日常生活で何がどれだけできないかが正確かつ具体的だと、審査側が障害の程度を評価しやすくなります。

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3-2.介護(補償)給付

障害(補償)年金の受給者(第1級、または第2級の精神神経・胸腹部臓器の障害など)であって、実際に常時または随時介護が必要になった場合に、介護に要した費用が一定範囲で支給される労災保険の制度です。


家族が介護する場合でも対象となり、介護サービスを利用する場合も想定されています。

いずれにしても、申請の場面において、介護の必要性が医療面・生活面の両方から説明できることが重要です。


介護の頻度や内容が曖昧だと認定が難しくなることがあります。

日々の介護記録、通院時の医師の評価、ケアマネジャー等の所見が資料として揃っていると、労基署に介護の必要性が伝わりやすくなります。

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3-3.アフターケア制度

アフターケア制度は、治ゆ後でも再発・悪化や後遺障害に伴う二次的疾病の防止を目的に、指定医療機関で診察・検査・保健指導などを無料で受けられる制度です。

治療が終わったから何もできない、という誤解を減らすために重要な仕組みです。


脊髄損傷や脳の器質性障害など、厚生労働省が定める20種類の対象傷病に該当する場合に利用できます。

どの症状に対し、何の目的で、どの医療機関で受けるのかを整理して申請することが基本になります。

3-4.義肢等補装具費支給制度

義肢等補装具費支給制度は、義肢、装具、車いすなど、身体機能を補うための補装具の購入・修理費を支給する制度です。

日常生活や就労の再開に直結するため、必要性が高い支援です。

補装具は、身体に合ったものを製作するだけでなく、採型や装着訓練、調整が重要になります。

そのため、これらに伴う通院の旅費等が支給対象となります。


スムーズに手続きを進めるためのポイントは、「労働基準監督署・労働局」、および「主治医(医療機関)」、そして製品を製作する「補装具業者」などとの「事前相談」です。


支給対象として認められるかの確認、補装具業者からの見積り、医師の意見が揃わないまま購入すると、後から支給対象外となるリスクがあります。

3-5.外科後処置

外科後処置は、障害(補償)給付を受けた後に、後遺障害の軽減や義肢装着などのための手術・診療を、労災病院等の契約病院で無償で受けられる仕組みです。

対象となるかは、後遺障害の内容と手術・処置の目的、対象医療機関であるかなどの要件で判断されます。

実施できる医療機関が限られることがあるため、早めの確認が必要です。


一定の要件を満たす場合、旅費が支給される可能性もあります。

遠方の医療機関になり得る制度だからこそ、交通費や通院負担も含めて制度として検討する価値があります。

4.症状固定後の手続きの流れ

症状固定後に補償を受けるには、「書類準備」と申請を「適切な順序」で進める必要があります。


手続きは「診断書を提出して終わり」ではありません。

労基署の審査では、症状固定日、治療経過、検査所見、現在の障害内容が一貫して説明できるかが見られます。


特に後遺障害は、同じ自覚症状の訴え(痛みやしびれなど)であっても、それを証明する客観的な資料の厚みで労基署による後遺障害等級の認定結果が変わります。

医師の診断書に加え、画像、検査、リハビリ評価、通院状況などが「残存していること」と「日常生活や労働への影響」を裏付ける形になっているかが、適切な等級が認定されるかどうかの分かれ目になります。


また、会社の協力が得られない、書類がそろわないといったトラブルにより、手続きがストップして滞りがちです。

会社が署名を拒否した場合に労働者自身で申請する(上申書を添付する)などの代替手段を先に知っておくと、早めの相談や対応ができ、給付金の支給やトラブル解決全体の遅れを抑えられます。

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4-1.労基署への申請から決定までの流れ

一般的な流れは、医師から症状固定の診断を受け、後遺障害診断書を作成してもらい、申請書と添付資料を労基署へ提出し、労基署が審査して支給決定通知が出て、支給されるという時系列になります。


審査の過程では、労基署の担当者との面談(調査)が行われたり、労基署から医療機関へ照会が行われたり、追加資料の提出を求められたりすることがあります。

全体の期間が延びることは需給の遅れにつながるため、提出時点で資料の不足がないかを意識しておくことが重要です。


審査期間はケースにより幅があり、結果が出るまで数ヶ月〜半年以上の時間を要することもあります。

また、申請しても認定に至らない場合や、想定より低い等級となる場合もあるため、決定後の対応(労基署の決定に不服がある場合の不服申し立てである審査請求や再審査請求など)も含めて、労災にくわしい弁護士に相談の上で見通しを持っておくと安心です。

4-2.必要書類と準備のポイント

主な申請書類は、障害(補償)給付等の請求書(業務災害の場合は「様式第10号」、通勤災害の場合は「様式第16号の7」)、後遺障害診断書、検査画像や所見、治療経過が分かる資料などです。

とくに診断書は等級判断の中核になるため、内容の具体性が重要になります。

単に痛いとかしびれるだけでなく、どの動作で、どの範囲に、どの程度の頻度で出るのか、仕事や家事で何ができないのかを整理して医師に伝えると、検査や診断書の所見に反映されやすくなります。


申請書には、会社の署名記入欄があります。

会社からの協力が得られない事情があるときは、事業主の証明が受けられない旨を記載するなどにより対応が可能です。

加えて、障害(補償)給付には「5年」という時効があるため、症状固定後は申請手続きを先送りせず、提出までの期限管理が大切です。

5.症状固定と損害賠償(賠償金)の関係

労災保険の給付と、会社等への損害賠償請求は、目的や範囲が異なります。


労災保険は、業務や通勤が原因の傷病について、治療や生活の下支えをする公的保険です。

一方、会社側に安全配慮義務違反などの責任がある場合には、別途、損害賠償請求が可能です。


ただし、労災給付と賠償金は二重で受け取ることはできません。

調整や控除が問題になることがあります。


何が労災でカバーされ、何が賠償の対象になり得るかを切り分けて考えることが、適切な補償を受けるために大切なポイントになります。

5-1.労災保険で補償される範囲

労災保険では、療養、休業、障害、介護など、生活保障と治療支援に関わる給付が用意されています。

症状固定前は療養と休業補償が中心になり、症状固定後は障害や介護、アフターケア等へ比重が移ります。


一方で、慰謝料のように精神的損害を直接補う費目は、労災保険では原則としてカバーされません。

また、労災保険における休業給付などについては、補償は一部分のみです。

労災で補償されなかった損害についても、勤務先である会社に対して請求することができます。

5-2.会社への損害賠償請求が問題になるケース

会社への損害賠償が問題になりやすいのは、設備不良、危険作業の放置、長時間労働やハラスメントによる発症など、安全配慮義務違反を原因とする労災事故の場合です。

「労災認定」と「会社の責任」とは分けて判断することになりますが、事実関係が重なることが多いのも現実です。


また、業務中の交通事故のように、第三者である加害者が存在する場合(第三者行為災害)は、会社ではなく加害者(および加害者が加入する任意保険会社等)に対する損害賠償請求が可能です。


症状固定により、後遺障害の内容が確定するため、逸失利益など将来の損害の算定がしやすくなります。

だからこそ、症状固定前後の診療記録や就労状況の記録は、労災だけでなく賠償の場面でも大切な意味を持ちます。


賠償を検討する場合、労災給付との調整や、会社(あるいは加害者)との交渉や裁判、その際の立証が論点になります。

事故態様や勤務実態の資料が必要になることもあるため、迷う段階で早めに法律の専門家である弁護士に相談し、見通しを立てておくことが重要です。

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6.症状固定のデメリットと仕事への影響

症状固定の最大のデメリットとして被災労働者が感じやすいのは、療養給付が一区切りとなり、通院やリハビリの費用負担が変わることです。

ただし、症状固定後も利用できる制度があり、治療費などの全てが自己負担になるとは限りません。

6-1.症状固定したら解雇・退職が必要?

症状固定になったからといって、直ちに解雇や退職が必要になるわけではありません。


そもそも、労働基準法19条により、業務上の負傷や疾病の療養のために休業する期間及びその後30日間は、原則として解雇が禁止されています。


ただし、療養開始から3年を経過した時点で労災保険の傷病補償年金を受給している場合(労災保険法19条)や、会社が平均賃金の1,200日分の打切補償を支払った場合(労働基準法81条)には、この解雇制限が解除されるとされています。

症状固定は療養のための休業が一区切りとなるキッカケにはなりますが、解雇制限の解除要件そのものと自動的に連動するわけではありません。

勤務先としては、症状固定後に従業員を解雇可能かどうか、個別の事情に応じて慎重に判断することになります。


就労継続が可能かどうかの判断は、障害の程度、担当業務の内容、配置転換や業務軽減の余地、通勤の可否など、具体的事情で変わります。

もし後遺障害の影響で元の業務に戻れず、会社を退職せざるを得ない場合でも、雇用保険の基本手当(失業保険)を受給しながら求職活動を行うことが可能です。

症状固定により休業補償が終了しており、かつ「引き続き働く意思と能力(求職活動ができる状態)」があれば、失業保険の申請が可能になります。

なお、障害により当面働けない場合は、受給期間の延長手続きが必要です。


復職に向けて動かれる場合は、「できないこと」だけでなく、「できること」も整理しておくと良いでしょう。

短時間勤務、軽作業、補助具の使用、在宅勤務の可能性など、選択肢を会社とすり合わせることで、就労継続の道が見えることがあります。


一方で、解雇が問題となり得る場面もあります。

突然の退職勧奨や、不利益取扱いが疑われる場合は、記録を残したうえで、労働者を保護するための労働局の相談窓口や専門家に早めに相談し、対応方針を固めることが重要です。

労災事故で退職勧奨を受けた場合の対応方法

退職勧奨とは 退職勧奨とは、会社側(使用者)から従業員(労働者)に対して「辞めてほしい」と言って、退職を勧める行為のことです。 一般的に「肩たたき」とも呼ばれ、会社が人員削減や組織再編などの理由で従業員に自主的な退職を促 […]

6-2.症状固定後にリハビリ・通院はできる?

症状固定後は療養給付が原則として終了しますが、リハビリや通院が一切できなくなるわけではありません。

前述の通り、「アフターケア制度」や「外科後処置」など、目的に応じて別制度で対応できる場合があります。


また、労災保険の枠外で、ご自身の「健康保険」等を利用して通院やリハビリを継続する選択肢もあります。

このとき重要なのは、通院の目的が改善を目指す治療なのか、状態の維持管理や再発予防なのかを明確にすることです。

治療目的を定めることで、制度選択や費用負担の見通しが立てやすくなります。

6-3.症状の再発・悪化が起きたときの対応

症状固定後に「再発」や「悪化」が起きた場合、再度の労災給付が問題となるケースがあります。

まずは受診して医学的に状態を確認し、労災としての取り扱いについて医療機関や労基署に相談することになります。


症状固定後の治療費は、原則自己負担です。

したがって、症状固定後は健康保険を利用して治療をおこなうことになります。


症状が悪化した場合や新たな症状が出た場合には、「障害補償給付・障害給付変更請求書(様式第10号)」に医師の診断書などを添えて、労基署に再度審査を求めることができます。

悪化の事実が認められると、新たな障害等級に基づいて労災給付を受けることになります。

この変更請求は、後遺障害の「等級」の見直しです。


もしも、治ゆした傷病が再び悪化したようなケースで、再び医療的な治療が必要になった場合は「再発」として扱われます。

労災保険の再発と認められれば、打ち切られていた治療費のサポート(療養補償給付など)を再び受けることができます。


ただし、単に「業務外の理由で体調を崩したわけではない」という消極的な理由だけでは不十分です。

労災保険における「再発」と認められるには、次の3つの要件をすべて満たす必要があります。

  1. その症状の悪化が、当初の業務上または通勤による傷病と相当因果関係があると認められること
  2. 症状固定の時点からみて、明らかに症状が悪化していること
  3. 治療(療養)を行えば、その症状の改善が期待できると医学的に認められること

この再発の適用を受けて労災保険から治療費の支給を受けるためには、所轄の労働基準監督署長による認定を受けなければなりません。

そのため、昔の労災の再発が疑われる症状が出た場合は、自己判断で我慢したりせず、まずは医師の診察を受けて慎重に判断してもらい、速やかに所轄の労基署へ連絡・相談してください。

7.労災の症状固定でよくある質問

症状固定は、その判断のタイミングや手続きへの不安が大きいものです。

7-1.症状固定せず長期間経過した場合はどうなる?

治療が長期間続いている場合でも、医学的に改善見込みがあるなら、症状固定を急ぐ必要はありません。


大切なのは、治療の目的が改善に向かっているのか、それとも維持管理に移っているのかを主治医と状況を共有することです。


治療による改善が難しいのに症状固定の判断を先送りすると、後遺障害等級の認定に必要な検査や日常生活への支障の整理が後回しになり、結果として手続きや生活設計が遅れるリスクがあります。


症状固定後に請求期限のカウントが始まる給付もあるため、症状固定日が見えてきたら、提出書類や検査の段取りを前倒しで準備を進めるようにするのがよいでしょう。


療養開始から1年6ヶ月を経過しても傷病が治ゆ(症状固定)せず、その傷病による障害の程度が傷病等級に該当する場合は、休業補償給付から「傷病補償年金」へと切り替わるケースがあることも念頭に置いておきましょう。


弁護士への相談のポイントは、主治医による現状の症状や、今後の治療で改善が期待できるかという所見、およびこれまでの検査結果などを持参し、将来の等級認定に必要な資料が揃っているか確認することです。

これらの資料をもとに、後遺障害等級を認定される可能性や、今後の手続きの見通しについて具体的なアドバイスを受けることができます。

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8.問い合わせ先と相談窓口

手続や判断に迷ったときは、早めに公的窓口や専門家に相談することで不利益を防ぎやすくなります。


まず基本は、管轄の労働基準監督署です。

必要書類や提出先、手続きの一般的な流れ、会社の協力が得られない場合の扱いなど、実務的な確認ができます。

労災による就労や解雇、配置転換など労務面の悩みがある場合も、都道府県労働局の総合労働相談コーナーなどを活用することで、労働問題も整理することができます。


また、以下のようなケースでは、複雑な労災手続きに精通し、解決事例を多く持つ「労災問題に強い弁護士」へ早急に相談してください。

  • 後遺障害の認定資料の準備に不安がある
  • 会社に対する損害賠償請求を検討している
  • 会社が安全配慮義務違反を認めず、争いが予想される

症状固定前後は重要な判断が集中し、手続きの遅れが不利益に直結します。

手遅れになる前に、専門家のサポートを受けましょう。

9.まとめ

症状固定(治ゆ)は、労災手続のゴールではなく、補償が「治療」から「後遺障害・介護・再発予防」へ移る重要な転換点です。


労災の症状固定(治ゆ)は、完治を意味するのではなく、改善見込みが乏しく状態が安定したという制度上の区切りです。

この時点で療養給付が一区切りになり、後遺障害等級認定と障害(補償)給付など、次の補償制度へ進みます。


症状固定後は、障害(補償)給付に加え、介護(補償)給付、アフターケア、補装具、外科後処置など、困りごとに応じた制度が用意されています。

使える制度を知らないと自己負担が増えるケースもあるため、選択肢の把握が重要です。


適切な後遺障害の認定結果を得るためには、後遺障害診断書や検査所見の提出だけでなく、日常生活や仕事への支障を具体的に伝えることが重要です。

医師から症状固定と言われたら、まずは主治医と今後の見通しを確認し、遅滞なく書類準備と期限管理を進めましょう。

もし手続きや申請内容に少しでも迷う点があれば、労基署や弁護士などの専門家へ早めに相談することが、不利益を防ぐ最善の近道です。


弁護士法人一新総合法律事務所では、被災労働者やそのご家族の方が適切な補償を受けられるよう、法的なフルサポートをおこなっています。


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この記事を監修した弁護士
弁護士 谷尻 和宣

谷尻 和宣
(たにじり かずのぶ)
弁護士法人一新総合法律事務所 理事・松本事務所長・弁護士

出身地:京都府
出身大学:京都大学法科大学院修了
主な取扱分野は、交通事故などの事故賠償案件と相続。そのほか、離婚、金銭問題など幅広い分野に精通しています。
保険代理店向けに、顧客対応力アップを目的として「弁護士費用保険の説明や活用方法」解説セミナーや、「ハラスメント防止研修」の外部講師を務めた実績があります。