労災となる過労死への対処法とは?定義・認定基準・補償まで徹底解説

- 1. 1.過労死等とは何か?その定義と社会的背景
- 1.1. 過労死等の定義と「過労死等防止対策推進法」
- 1.2. 「過労死」が発生する状況
- 2. 2.「過労死ライン」とは?残業時間と健康リスク
- 2.1. 長時間労働が心身に与える深刻なリスク
- 3. 3.過労死等の労災認定の要件と判断基準
- 3.1. 脳・心臓疾患の労災認定基準
- 3.2. 精神障害(過労自殺を含む)の労災認定基準
- 4. 4. 過労死等が疑われる場合の初動対応
- 4.1. 医療機関の受診・診断書の入手
- 4.2. 証拠の確保
- 5. 5. 労災保険制度の概要と申請手続き
- 5.1. 労災保険制度とは?
- 5.2. 労災申請の方法と必要書類の準備
- 5.3. 労災認定の具体的な流れ
- 5.4. 会社が労災申請に非協力的な場合の対処法
- 6. 6.会社に対する損害賠償請求
- 7. 7.消滅時効と早めの手続きの重要性
- 8. 8.労災が不認定となった場合の不服申し立て
- 9. 9. 過労死等の問題、弁護士に相談する3つのメリット
- 10. 10.まとめ
過労死や長時間労働は、現代社会において依然として深刻な問題です。
万が一、ご自身やご家族が過酷な労働環境に置かれた場合、労災認定の基準や補償の内容を正しく理解し、適切な手続きや対処法を知っておくことは非常に重要です。
この記事では、過労死等の定義や労災認定の基準、労災保険の申請手続きや注意点などについて詳しく解説します。
1.過労死等とは何か?その定義と社会的背景
まず、過労死等がどのような状態を指すのかについて理解を深めましょう。
過労死等の定義と「過労死等防止対策推進法」
一般的に「過労死」とは、過度な長時間労働やそれに伴う多大なストレスが原因で、脳血管疾患・心臓疾患を発症して死亡したり、あるいは精神障害を発症して自殺に至ったりする事態を指します。
さらに、この問題の深刻さから「過労死等防止対策推進法」という法律が平成26年(2014年)に施行されました。
この法律では、「過労死等」を以下のように定義しています(同法第2条)。
参照「過労死等防止対策推進法」における過労死等の定義
① 業務における過重な負荷による脳血管疾患・心臓疾患を原因とする死亡
② 業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡
③ 死亡には至らないが、これらの脳血管疾患・心臓疾患、精神障害
このように、法律上の「過労死等」は、死亡だけでなく、重篤な病気も含む広い概念です。本記事では、主に労働者が亡くなられた「過労死」のケースについて解説します。
「過労死」が発生する状況
過労死は、連日の残業や休日出勤などによる疲労の蓄積が、結果的に労働者の生命を奪う深刻な状態を指します。
具体的には、過労死が発生する状況として以下のようなケースが挙げられます。
― 脳・心臓疾患による突然死
長時間労働や過度のストレスにより、高血圧や動脈硬化が進行し、ある日突然、脳出血、くも膜下出血、脳梗塞、心筋梗塞、狭心症、心停止、重篤な心不全などの脳・心臓疾患を発症し死亡するケース。
― 精神障害による自殺
過重な業務や職場のハラスメントなどによる強い精神的負荷が原因でうつ病などの精神障害を発症し、追い詰められた結果、自ら命を絶ってしまうケース(過労自殺)。
過労による身体的・精神的な不調は、本人がその予兆に気づきにくい場合や、多忙さから問題を軽視してしまうケースも少なくありません。
そのため、家族や同僚など周囲の人々による早期の気づきと対応が、最悪の事態を回避するために非常に重要です。
2.「過労死ライン」とは?残業時間と健康リスク
過労死のリスクを判断する上で重要な指標となるのが、いわゆる「過労死ライン」です。ここでは、過労死ラインの具体的な内容と、長時間労働が心身に及ぼす深刻な影響について解説します。
「過労死ライン」とは、長時間労働と脳・心臓疾患の発症との間に医学的に強い関連性があると判断される時間外労働(残業)時間を示す目安のことです。
厚生労働省は、脳・心臓疾患の労災認定基準の中で、業務の過重性を評価する具体的な労働時間として以下の基準を示しています。
長時間労働が心身に与える深刻なリスク
長時間労働が常態化すると、私たちの心身には様々な悪影響が現れます。
― 睡眠不足と疲労の蓄積
十分な睡眠時間が確保できず、慢性的な睡眠不足に陥ります。これにより、疲労が十分に回復せず、日中の集中力や判断力の低下、免疫力の低下などを引き起こします。
― 生活習慣の乱れ
食事時間が不規則になったり、運動不足になったりするなど、生活リズムが大きく乱れます。これは、高血圧、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病のリスクを高めます。
― 心血管系への負担増大
長時間労働による持続的なストレスや興奮状態は、交感神経を緊張させ、血圧の上昇や心拍数の増加を招きます。これが長期間続くと、血管や心臓に過剰な負担がかかり、動脈硬化を進行させ、脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血など)や心筋梗塞といった致命的な脳血管疾患・心臓疾患の発症リスクを著しく高めます。
― 精神的健康への悪影響
過度なプレッシャー、仕事のコントロール感の喪失、休息不足などは、強い精神的負荷となり、うつ病、不安障害、適応障害などの精神障害を発症するリスクを高めます。最悪の場合、過労自殺に至ることもあります。
このように、長時間労働は徐々に私たちの心身に影響を与え、気づいたときには深刻な健康障害を引き起こしている可能性があります。
3.過労死等の労災認定の要件と判断基準
過労死等が労働災害(労災)として認定されるためには、一定の要件を満たす必要があります。
ここでは、脳・心臓疾患と精神障害それぞれの労災認定基準について、具体的な判断ポイントを解説します。
労災認定を受けるためには、原則として以下の2つの要件を満たす必要があります。
① 業務遂行性
労働者が労働契約に基づき、事業主の支配下にある状態で業務に従事していたこと。
② 業務起因性
その業務が原因となって、傷病(病気やケガ)、障害、または死亡に至ったこと。つまり、業務と結果との間に相当因果関係が認められること。
過労死等の場合、特にこの「業務起因性」の判断が重要となります。
脳・心臓疾患の労災認定基準
労災補償の対象となるのは、次の脳・心臓疾患です。
脳血管疾患 | 虚血性心疾患等 |
---|---|
脳内出血(脳出血) くも膜下出血 脳梗塞 高血圧性脳症 | 心筋梗塞 狭心症 心停止 (心臓性突然死を含む。) 重篤な心不全 大動脈解離 |
これらの疾病が労災認定されるためには、その発症が「業務による明らかな過重負荷」によるものであると医学的に認められる必要があります。
「業務による明らかな」とは、発症の有力な原因が仕事によるものであることがはっきりしていることをいいます。
また、「加重負荷」とは、医学的経験則に照らして、脳・心臓疾患の「発症の基準となる血管病変等」を、その「自然経過」を越えて「著しく増悪」させ得ることが客観的に認められる負荷をいいます。
つまり、加齢、生活習慣、生活環境等の日常生活の要因や遺伝等の個人に内在する要因を越えて、仕事が原因で、血管病変等の悪化が著しいことをいいます。
したがって、業務による明らかな加重負荷は労災認定の対象になりますが、業務以外による加重負荷や、発症の基礎となる血管病変等の自然経過は、労災認定の対象にはなりません。
厚生労働省は労働者に発症した脳・心臓疾患を労災認定する基準として、以下のいずれかの要因が認められる場合に、業務による過重負荷があったと判断します。
参照「業務による明らかな過重負荷」の認定基準
厚生労働省「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準」
認定要件1「長期間の過重業務」
発症前おおむね6か月間にわたり、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したこと。
ここで前述の「過労死ライン」(発症前1か月間に100時間超、または発症前2~6か月平均で月80時間超の時間外労働)が重要な判断要素となります。
また、その時間に至らない場合でも、これに近い時間外労働を行った場合には、「労働時間以外の負荷要因」も踏まえて、総合的に評価されます。
例えば「不規則な勤務(交替制勤務、深夜勤務、拘束時間の長い勤務など)」「出張の多さ」「作業環境(騒音や暑熱、寒冷な場所での作業)」「精神的緊張を伴う業務(責任の重い業務、危険を伴う業務、顧客とのトラブル対応など)」があります。
なお、労働時間の評価については、次の①から③を踏まえて判断されています。
①発症前1か月ないし6か月にわたって、1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合には、業務と発症との関連性が弱いと評価できること
②おおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症の関連性が徐々に強まること評価できること
③発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月にわたって、1か月当たりおおむね8時間を超える時間外労働が認められる場合には、業務と発症の関連性が強いと評価できること
上記③の水準には至らないがこれに近い時間外労働が認められる場合には、特に他の負荷要因の状況を十分に考慮し、そのような時間外労働を越えて一定の労働時間以外の負荷が認められるときは、業務と発症との関連性が強いと評価できること
認定要件2「短期間の過重業務」
発症前おおむね1週間以内において、特に過重な業務に就労したこと。
具体的には、日常業務と比較して特に過重な身体的・精神的負荷を生じさせる業務であったか、継続的な長時間労働や不規則な勤務、十分な休日のない勤務などが認められるかなどを総合的に評価します。
業務と発症の時間的関連性については、次のように業務と発症との時間的関連を考慮しています。
①発症から直前までの間の業務が特に加重であるか否か
②発症直前から前日までの間の業務が特に加重であると認められない場合であっても、発症前おおむね1週間以内に加重な業務が継続している場合には、業務との関連性があると考えられるので、この間の業務が特に加重であるか否か
認定要件3「異常な出来事」
発症直前から前日までの間において、発症状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇したこと。
異常な出来事とは、精神的負荷(極度の緊張、興奮、恐怖、驚がく等の強度の精神的負荷を引き起こす事態)、身体的負荷(急激で著しい身体的負荷を強いられる事態)、作業環境の変化(急激で著しい作業環境の変化)などをいいます。
異常な出来事と認められるか否かは、発症の基礎となった病態を急激に悪化させるような、精神的・身体的に強度の負荷を与える突発的、予測困難、事故の大きさなどがあるか否かで判断されています。
精神障害(過労自殺を含む)の労災認定基準
うつ病や適応障害などの精神障害が労災認定されるためには、その発症が業務による強い心理的負荷(ストレス)によるものであると認められる必要があります。
また、精神障害による自殺(過労自殺)についても労災補償の対象となり、同様の基準で判断されます。
厚生労働省は「心理的負荷による精神障害の認定基準」を定めており、以下の3つの要件をすべて満たす場合に労災と認定されます。
参照「精神障害の労災認定要件」
厚生労働省「心理的負荷による精神障害の認定基準」
認定要件1
対象疾病(うつ病、急性ストレス反応など認定基準の対象となる精神障害)を発病していること。
認定要件2
対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること。
認定要件3
業務以外の心理的負荷や個体側要因(既往歴など)により対象疾病を発病したとは認められないこと。
認定要件1の「対象疾病」は、国際疾病分類の「精神および行動の障害」に分類される精神障害。ただし、この分類のうち認知症や頭部外傷などによる障害やアルコール・薬物による障害は対象外です。
また、認定要件2の「業務による強い心理的負荷」が認められるかどうかは、厚生労働省が示す「業務による心理的負荷評価表」を用いて、具体的な出来事の心理的負荷の強度を「強」「中」「弱」で評価し、総合的に判断されます。
4. 過労死等が疑われる場合の初動対応
職場でご自身や同僚が過労による健康被害を被った、あるいは最悪の事態に至った場合、遺族や周囲の方々は、悲しみや混乱の中で多くの対応に迫られます。
しかし、迅速かつ適切な初動対応が、その後の労災申請や権利の確保において非常に重要になります。
医療機関の受診・診断書の入手
緊急搬送された場合はもちろん、体調不良の段階でも医療機関を早めに受診し、診断書の取得が必要になります。
診断書は、労災認定の際に重要な書類として扱われるため、症状や受診経緯、労働状況などを詳細に医師へ伝えておきましょう。
証拠の確保
過労死等の労災認定や、会社に対する損害賠償請求においては、長時間労働や過重な業務、強い心理的負荷があったことを客観的に示す証拠が極めて重要です。
可能な範囲で、以下のような証拠を確保するよう努めましょう。
― 勤務時間を証明するもの
・タイムカード、出退勤記録システム(ICカード、パソコンのログイン・ログアウト記録など)
・業務日報、運転日報(運輸業の場合)
・手書きの勤務時間記録(手帳、日記、カレンダーなど)
・メールの送信履歴、社内システムのアクセスログ
・GPSの移動記録(社用車やスマートフォンのアプリなど)
― 業務内容・負荷を証明するもの
・雇用契約書、労働条件通知書
・就業規則
・業務指示書、業務計画書、会議の議事録
・担当していた業務に関する資料(企画書、報告書など)
・上司や同僚との業務に関するメール、チャット記録(LINE、Slackなど)、通話記録
・業務上のミスやトラブルに関する報告書、顛末書
― 健康状態・受診状況を証明するもの
・医師の診断書、診療明細書、お薬手帳
・健康診断の結果、ストレスチェックの結果
・本人や家族が記録していた体調の変化に関するメモ、日記
― その他:
・職場の写真や動画(作業環境を示すものなど)
・同僚や上司の証言(可能であれば書面や録音で)
・家族や友人に送ったメールやSNSのメッセージ(仕事の辛さや体調不良を訴える内容など)
これらの証拠は、時間が経つと散逸したり、会社側によって開示されにくくなったりする可能性があります。
可能な限り早期に収集することが重要です。
5. 労災保険制度の概要と申請手続き
過労死等が労災と認められた場合、被災した労働者やその遺族は、労災保険制度を通じて様々な補償を受けることができます。
ここでは、労災保険制度の基本的な仕組みと、申請手続きの流れについて解説します。
労災保険制度とは?
労災保険制度(労働者災害補償保険制度)は、業務上の事由または通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等(労働災害)に対して、迅速かつ公正な保護をするための公的な保険制度です。
万が一、過労死等が発生した場合、この労災保険制度を利用して、治療費の給付や遺族への年金・一時金の支給など、様々な補償を受けることができます。
労災申請の方法と必要書類の準備
労災保険の給付を受けるためには、被災労働者本人またはその遺族が、所定の請求書に必要な事項を記入し、事業所の所在地を管轄する労働基準監督署長に提出して申請を行う必要があります。
労働者が亡くなられた場合、主に次の労災保険給付を受けることができます。
なお、過労死によってお亡くなりになるまでの間に、業務上の疾病(例えば、過労による脳・心臓疾患や精神障害など)のために休業し、療養していた場合、原則としてその期間に対応する労災保険給付を受けることができます。
― 療養(補償)給付
業務が原因で発症した病気やケガの治療のためにかかった費用(診察費、薬剤費、入院費など)が支給されます。指定医療機関で治療を受ければ、原則として窓口での支払いは発生しません(現物給付)。
・請求書様式:
① 労災病院や労災指定病院で受診した場合
・療養補償給付たる療養の給付請求書(様式第5号)
・療養給付たる療養の給付請求書(様式第16号の3)
② 労災病院以外の病院を受診した場合
・療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の費用請求書(様式第7号)
・療養補償給付たる療養の費用請求書(様式第16号の5)
・添付書類例:
医師の診断書、診療明細書、領収書など
― 休業(補償)給付
業務上の病気やケガの療養のために働くことができず、賃金を受けられない日が4日以上続いた場合に、その4日目から支給されます。
・請求書様式:休業補償給付支給請求書(様式第8号)または、休業給付支給請求書(様式第16号の6)
・添付書類例:医師の診断書(休業期間の証明)、賃金台帳、出勤簿など
― 遺族(補償)年金・一時金
労働者が死亡した場合、一定の要件を満たす遺族に支給されます。
・請求書様式:遺族補償年金支給請求書(様式第12号)など
・添付書類例:死亡診断書、戸籍謄本(死亡の事実、遺族関係の証明)、生計維持関係を証明する書類など
― 葬祭料(葬祭給付):労働者が死亡し、葬祭を行った場合に支給されます。
・請求書様式:葬祭料請求書(様式第16号)
・添付書類例:死亡診断書、葬儀費用の領収書など
これらの請求書は、厚生労働省のウェブサイトからダウンロードできます。
記入方法や必要書類について不明な点があれば、労働基準監督署の窓口や、労働問題に詳しい弁護士に相談しましょう。
労災認定の具体的な流れ
一般的な労災認定までの流れは以下の通りです。
① 会社に報告
会社は労災発生時には労働基準監督署(労基署)に「労働者死傷病報告」の提出義務があるため、会社に報告します。
② 労災請求
被災労働者または遺族は、会社を通じて、あるいは自身で労働基準監督署に労災保険給付の請求書を提出します。
③ 調査
労働基準監督署の担当官(労働基準監督官)が、事業主、被災労働者など関係者への聞き取り調査や、提出された資料の確認などをおこないます。
過労死等の事案では、立ち入り検査や労働時間の実態や業務内容、心理的負荷の状況などが調査されます。
④ 支給・不支給の決定
調査結果に基づき、労働基準監督署長が労災に該当するかどうか、保険給付を支給決定するか不支給とするかを決定し、請求者に通知します。
会社が労災申請に非協力的な場合の対処法
会社(事業主)には労働者の労災申請への助力義務があります。
しかし、会社によっては、責任を問われることを恐れたり、保険料の増額を懸念したりして、労災申請に非協力的であったり、労災であることを認めようとしない(いわゆる「労災隠し」)ケースも残念ながら存在します。
本来、労災申請は労働者や遺族が手続きをおこなうものです。
申請書に会社の同意や押印がなくても、労働者本人や遺族が直接、労働基準監督署に申請することができます。
会社が非協力的な場合の具体的な対処法としては、以下のようなものが挙げられます。
― 労働基準監督署に相談する
労働基準監督署は、国の行政機関であり、労災申請に関する相談に個別に応じてくれます。会社が協力してくれない状況を説明し、手続きの進め方についてアドバイスを受けましょう。
― 弁護士に相談する
労働問題に詳しい弁護士に相談すれば、労災申請の流れや、会社と示談交渉を進める上でのアドバイスを受けることができます。特に会社が労災の事実を争ってくるような複雑なケースでは、弁護士のサポートが不可欠となるでしょう。
ご家族が突然お亡くなりになった場合、遺族は、その後、どのように手続きを進めればいいか分からないことも多いと思います。労働基準監督署への相談や弁護士の力を借りて、労災申請の手続きを進めていきましょう。
労災を会社が認めない場合でも労災保険請求はできる!被災労働者の対応方法を全解説
労働者災害補償保険制度(労災保険制度)は、業務中や通勤中に発生する労働者の負傷、疾病、障害、死亡など対して保険給付をおこなうことで、社会復帰を促進し、被災労働者やその遺族の福祉を増進することを目的にしています。 しかし、 […]
6.会社に対する損害賠償請求
過労死等が労災として認定されると、労災保険から様々な給付が受けられます。
しかし、労災保険からの給付だけでは、被った損害の全てが補償されるわけではありません。
場合によっては、会社に対して別途、損害賠償を請求できる可能性があります。
労災保険からの給付は、主に被災労働者の逸失利益(得られたはずの収入)や治療費の一部を補償するものですが、精神的苦痛に対する慰謝料などは原則として含まれません。
しかし、会社が労働者の生命・健康を危険から保護するように配慮すべき義務(安全配慮義務)を怠った結果、労働者が過労死等に至ったと認められる場合には、会社に対して別途、民事上の損害賠償を請求できる可能性があります。
会社に対する損害賠償請求をおこなうためには、会社の安全配慮義務違反(例:長時間労働の黙認・指示、健康管理措置の不実施、過重な業務配分など)の事実と、それが原因で過労死等が発生したこと(因果関係)を、労働者側が証拠に基づいて立証する必要があります。
この立証は簡単ではないため、弁護士の助言やサポートが必要になることがあります。
7.消滅時効と早めの手続きの重要性
労災保険の給付請求権や、会社に対する損害賠償請求権には、法律で定められた消滅時効があります。
この期間を過ぎてしまうと、たとえ権利があったとしても請求できなくなってしまいます。
権利を失うことのないよう、できるだけ早い段階で労働問題に詳しい弁護士に相談し、手続きを進めていくようにしましょう。
- 労災保険給付の時効期間(主なもの):
・療養(補償)給付
療養の費用を支出した日ごとに、その翌日から2年
・休業(補償)給付
賃金を受けなかった日ごとに、その翌日から2年
・遺族(補償)給付
労働者が死亡した日の翌日から5年
・葬祭料(葬祭給付)
労働者が死亡した日の翌日から2年
- 会社に対する損害賠償請求権の時効期間:
・安全配慮義務違反(債務不履行)に基づく場合
権利を行使できることを知った時から5年、または権利を行使できる時から10年のいずれか早い方
・不法行為に基づく場合
損害及び加害者を知った時から3年(人の生命又は身体を害する不法行為の場合は5年)、または不法行為の時から20年
8.労災が不認定となった場合の不服申し立て
労災申請をしても、必ずしも認定されるとは限りません。
労働基準監督署の調査の結果、業務と傷病・死亡との因果関係が認められないなどの理由で、不認定(労災と認めない決定)がなされることもあります。 しかし、この決定に不服がある場合には、不服申し立ての手続き(審査請求、再審査請求)、さらには行政訴訟(取消訴訟)を通じて、決定の取り消しを求めることができます。
- 審査請求
監督署長の決定の通知を受け取った日の翌日から3か月以内に、その決定を行った労働基準監督署長を管轄する都道府県労働局に置かれた労働者災害補償保険審査官に対して審査請求を行います。
- 再審査請求
審査官の決定にさらに不服がある場合は、その決定書の謄本が送付された日の翌日から2か月以内に、厚生労働省に置かれた労働保険審査会に対して再審査請求を行います。
- 行政訴訟(取消訴訟)
再審査請求の裁決にも不服がある場合には、裁判所に対して行政訴訟(処分の取消しの訴え)を提訴することができます。
提訴期間は、審査請求に対する決定、あるいは審査会による再審査請求の裁決があったことを知った日から6か月以内と定められています。
ただし、審査請求をした日から3か月を経過しても決定がない場合は、審査請求の決定を待たずに提訴することも可能になります。
不服申し立ての手続きは専門的な知識を要し、期限も厳格に定められているため、労働問題に強い弁護士に早期に相談し、アドバイスを受けることが賢明です。
9. 過労死等の問題、弁護士に相談する3つのメリット
過労死等の問題に直面した場合、あるいはそのリスクを感じている場合、労働問題に詳しい弁護士に相談することは、問題解決に向けた大きな力となります。
法的な専門知識や裁判例などをもとに、あなたやご家族が最善の解決策を見つけるためのアドバイスを受けることができます。 また、依頼することで次のような負担の軽減、問題解決のためのサポートが期待できます。
① 労災申請の流れを説明
労災を申請する際、弁護士に相談することで、今後どのように労災申請が進むのか理解することができます。また、事案によっては、弁護士による請求書類の作成、労働基準監督署とのやり取りなど、労災認定に向けた一連の手続きを任せることもできます。
② 会社への損害賠償請求を代行
会社に責任があると考えられる場合、弁護士が法的な観点から損害賠償請求が可能か判断します。会社との交渉や、必要であれば裁判手続きを進め、適切な賠償額を得られる可能性が高まります。
③ 不安な気持ちに寄り添い、権利を守る
先の見えない法的手続きは不安が大きいものです。 弁護士は法的な見通しを分かりやすく説明し、会社や労基署、裁判所といったやりとりを任せることもできるため、精神的な負担を軽減できるようなサポートが受けられます。
過労死等の問題は、法律や医学的な知識も絡むため、ご自身だけで対応するのは大変です。
まずは一度、労働問題に強い弁護士に相談し、どのようなサポートが受けられるのかを確認してみることをおすすめします。
10.まとめ
本記事では、過労死等の定義、労災認定の基準、具体的な手続きについて詳しく解説しました。
過労死によりご家族を亡くされたご遺族の方にとって、労災認定の手続き、会社への損害賠償請求などへの対応は負担が大きいものです。
弁護士法人一新総合法律事務所では、労災事故に遭われた労働者やご家族さまに向けた支援をおこなっています。
法律相談では、弁護士が事情を丁寧にお伺いし、① 具体的な解決策のご提案、② 解決までの見通しの説明、③ 不安・疑問の解消のためのアドバイスをおこなっています。
法律相談は事前予約制です。
電話、相談予約フォームなどご都合の良い方法で、お気軽にお問い合わせください。