労災で請求できる慰謝料のすべてを徹底解説

労災で怪我や病気を負った場合、労災保険だけでなく会社に対しても慰謝料を請求できる可能性があります。

会社に過失がある場合や後遺症が残るケース、死亡事故など、個別事情に応じて請求できる損害賠償額や手続きが異なるため、本記事で基礎知識から相場までを具体的に解説します。

目次

1. 労災による慰謝料とは? 基本的な考え方

労災による慰謝料とは、被災労働者が仕事や通勤中の事故・災害によって負った精神的苦痛に対する金銭的補償を指します。


まず大前提として、慰謝料は労災保険のカバー範囲とは別に会社に対して請求できる可能性があります。

労災保険は治療費や休業補償などの経済的損害を中心にカバーしますが、精神的な苦痛への補償は含まれません。


そのため、使用者の安全配慮義務違反や過失があったときには、追加で会社に対し慰謝料を請求する道が開かれます。

実際に慰謝料請求が認められるためには、以下の点をクリアする必要があります。

  • 因果関係の立証
    被災者の精神的苦痛と、会社側の責任の繋がり
  • 会社の過失の証明
    安全管理や労働環境の不備が原因であること
  • 客観的な証拠の収集
    事故発生状況や業務実態を示す資料

単に仕事中にケガをしたという事実だけでなく、会社側に非があったことを法的に説明することが重要です。

時効の問題も絡むため、適正な補償を得るには早期に慰謝料請求の手続きを始めることが大切です。

労災による損害賠償の基礎知識~相場・算定方法・請求手続きまで徹底解説~

労働中の事故や疾病(ケガや病気)による損害は、国の制度である「労災保険」からの給付金だけでなく、事案によっては会社(使用者)に対して民事上の損害賠償請求ができる場合があります。 労災保険は迅速に支給される公的な補償制度で […]

2. 労災保険で補償される内容と慰謝料の違い

損害・補償の項目労災保険給付
(国からもらえるお金)
会社への損害賠償請求
(会社に請求すべきお金)
精神的苦痛への補償
(慰謝料)
支給されない
(対象外)
請求可能
(入通院、後遺障害、死亡慰謝料)
治療費・医療費〇 療養補償給付として全額支給△ 原則会社に請求不要
(労災保険で補償。通院交通費などの実費は会社に請求可能)
休業中の収入補償△休業補償給付として基本給の約6割(+特別支給金)〇不足分(約4割)を「休業損害」として請求可能
将来の収入減
(逸失利益)
△障害補償給付などとして一定基準額を支給〇労災給付だけでは足りない本来の想定収入との差額を請求可能
その他の費用△一部の介護費用など〇装具代、将来の介護費、葬儀費用の不足分など

労災保険制度は、医療費や休業補償給付、障害補償給付などを支給する公的保険です。

精神的苦痛を補償する慰謝料は労災保険給付では補償されないため、会社の安全配慮義務違反などが問われた結果、別途会社に対して請求する損害項目になります。

補償が不足する場合は、会社側へ別途慰謝料を請求することが重要です。


特に長期治療を要するほどの後遺障害が残った場合や、通院治療が長期にわたり精神的ストレスが大きいケースでは、不足分を補う慰謝料が高額になります。

また、労災保険と異なり、慰謝料は裁判例などを参考にして個別に算定される性質を持ちます。

会社の責任の程度や被災労働者の受けた被害内容を慎重に評価し、当事者間で示談交渉を行うか、あるいは訴訟を通じて金額が決定されるケースもあります。

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3. 会社への損害賠償請求と安全配慮義務・使用者責任

会社には安全配慮義務や使用者責任があり、これを怠った場合には損害賠償請求が可能です。


会社には、従業員が安全かつ健康的に働ける環境を整えなければならない「安全配慮義務」が法律上課されています。

機械設備への安全対策や適切な労働条件を確保することがその具体例です。

会社がこれを怠ると、結果的に従業員が事故や疾病の被害を受けるリスクが高まり、損害賠償の対象となります。


また、民法に基づく「使用者責任」により、会社は従業員や被傭者が業務上行った行為に対しても責任を問われます。

これは、従業員の行為が業務の範囲内で行われた場合には、会社自身にもその責任が及ぶというものです。

労災が発生した際、会社がこれらの義務をどの程度遵守していたかは、慰謝料の金額を左右するポイントになります。

3-1. 労働契約法第5条と民法第715条との関係

労働契約法第5条では、労働者が安全に働けるように配慮する義務を使用者が負うことが明記されています。


一方で、民法第715条は使用者責任を定めており、使用者は被用者の行為による損害を賠償する義務を負うとされています。

さらに、一般的な不法行為責任(民法第709条)が問われることもあります。

これらの法律は相互に連動し、会社側がどの程度注意を払っていたかを検討する際の根拠となります。


労災事故の場合、実際の事故原因が会社の過失によるものかどうかが争点になります。

しかし、どちらの法律を適用するにしても安全配慮義務違反や被用者に対する監督不行届などの会社の過失が認められれば、慰謝料を含む損害賠償請求が可能です。

そのため、事故当時の指示体制や機械設備の点検記録などの証拠が重要になります。

3-2. 会社に過失が認められるケースとは

会社が安全マニュアルを整備していなかったり、必要な保護具を用意していなかったりする場合は、会社の過失が認められます。

また、従業員への教育や研修を十分に行わず事故が発生した場合も、会社側に責任が生じます。


さらに、過度な残業や休憩不足など、労働条件が著しく不十分な状況も問題になります。

これにより従業員の体調不良や注意力の散漫を招き、事故のリスクを高めた場合、会社が過失を問われる要因となるからです。

4. 慰謝料が発生しやすい労災のケース

特に慰謝料が問題になりやすい典型的な労災の事例を紹介します。


労災における慰謝料は、会社が怠った安全配慮義務の度合いが大きいほど問題となりやすい傾向があります。

特に、十分な安全設備が整っていない工場や建設現場での大きな事故や、長時間勤務や過酷な業務による精神疾患などが代表的な事例といえます。

単なる打撲などであれば少額で済むケースもありますが、骨折を伴う重傷や傷害の場合、慰謝料請求の重要性が増します。


また、業務外のように見える通勤途中の事故でも、一定の条件を満たせば通勤災害として労災保険の対象となるだけでなく、会社の負う責任が問われる場合があります。

そうした場合には精神的苦痛に対する慰謝料が追加で認められるケースもあるため、適正な調査と手段を取ることが大切です。

4-1. 通勤災害における慰謝料のポイント

通勤災害は、自宅から職場までの往復時に発生した事故などが該当します。


多くは交通事故が原因となり、例えば車や自転車の接触事故で負傷した場合に通勤災害として認められることがあります。

ただし、普段の通勤経路から逸脱していた場合などは、認定が難しくなるケースがあります。


会社に対して慰謝料を請求する際には、事故原因だけでなく労務管理上の問題点も検討しなければなりません。

たとえば、会社が従業員に対し過度に出勤を急がせる指示をした場合や、長時間労働による疲労蓄積が事故原因に影響したと認められれば、会社に過失があるとして損害賠償の対象になることがあります。

4-2. 業務災害における慰謝料のポイント

業務中に発生した事故は、建設現場での墜落や工場での機械操作ミスなど、場面によって多岐にわたります。

会社が安全設備や教育を怠った場合、過失責任を問われやすく、慰謝料の金額も大きくなる傾向があります。


業務災害が認定されるかどうかは、会社の管理下にある場所での事故かどうか、業務上の指示が直接的に影響していたのかといった点によって判断されます。

これらの要素が明らかになれば、精神的苦痛への補償として慰謝料が認定される可能性が高まります。

5. 入通院慰謝料の相場と計算方法

入通院慰謝料は、治療期間や通院日数などに基づいて算出されます。

一般的には治療期間が長く、通院日数が多いほど金額が増える傾向にあり、症状の重症度や労災事故の態様によって具体的な金額は大きく変わります。

また、主観的な痛みや精神的ストレスの程度も考慮されるため、客観的な証拠とともにしっかりと立証することが重要です。


こうした通院実績に加え、慰謝料の算定には主に「自賠責保険基準」「任意保険基準」「弁護士基準(裁判基準)」の3つの基準が存在し、どの基準を用いるかで金額が大きく変動します。

労災の事案で使用されるのは裁判所が採用している「弁護士基準」で、この基準が被災労働者にとって慰謝料が最も高額になります。

裁判だけでなく、加害者や会社側との示談交渉においても、この弁護士基準をもとに交渉することが可能です。


ただし、弁護士基準は、弁護士が代理人となり主張してこそ有効となります。

交渉過程で専門家の助言やサポートを得ることで、適正な慰謝料をより確実に獲得しやすくなります。

5-1. 入通院期間と症状固定の考え方

入通院慰謝料を計算する際の「入通院期間」は、原則として「怪我を負った当日から、医師に「症状固定」と診断されるまでの期間」を指します。


労災における症状固定(労災保険上は「治癒」と呼ばれます)とは、これ以上治療を継続しても医療的な効果(症状の大幅な改善)が期待できないと判断された状態のことです。

事故前の完全に健康な状態に戻っていなくても、「これ以上は良くならない状態」で安定した時点を意味します。


症状固定の診断が出ると、労災保険からの治療費や休業補償給付は原則として打ち切られます。

その後は、残った症状について「後遺障害認定」の手続きへと進みます。

無事に後遺障害の等級が認定されれば、労災保険から新たに「障害(補償)給付(年金または一時金)」が支給されるほか、会社に対しては別途「後遺障害慰謝料」や「逸失利益」を追加請求する段階へと移行します。


つまり、症状固定のタイミングがいつになるかによって、入通院慰謝料の金額が変わるだけでなく、その後の補償の種類(損害賠償の全体額)も大きく変わるため、非常に重要な分岐点となります。


入通院慰謝料は、入院期間と通院期間に応じて、次の表をもとに算定します(単位:万円)。

入院 1月2月3月4月5月 6月7月8月9月10月
通院 53101145184217 244266284297306
1月 2877122162199 228252274291303311
2月 5298139177210 236260281297308315
3月 73115154188218 244267287302312319
4月 90130165196226 251273292306316323
5月 105141173204233 257278296310320325
6月 116149181211239 262282300314322327
7月 124157188217244 266286304316324329
8月 132164194222248 270290306318326331
9月 139170199226252 274292308320328333
10月 145175203230256 276294310322330335
11月 150179207234258 278296312324332
12月 154183211236260 280298314326
13月 158187213238262 282300316
14月 162189215240264 284302
15月 164191217242266 286

例えば、入院期間が1ヶ月、その後6か月間通院した場合(ただし、むち打ち等の軽傷を除く)、交差する箇所で算定すると149万円になります。

障害補償給付とは?初心者でも理解できる基礎知識

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5-2. 通院頻度・重症度による増額要素

一般的に、通院頻度が多くなるほど身体的苦痛や生活への影響が大きいと判断され、慰謝料の増額要素となります。

重症のけがや複数部位にわたる負傷などでは、1回あたりの通院が長引き、治療スパンが伸びることも珍しくありません。


さらに、通院のために交通手段や付添いが必要な場合は、追加的な請求項目として考慮されるケースもあります。

こうした事情を示すためにも、医療機関の診断書や領収書、通院履歴などの客観的記録をきちんと残しておくことが大切です。

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6. 後遺障害慰謝料の相場と注意点

後遺障害が残った場合、その等級に応じて慰謝料の金額が変わります。

後遺障害とは、治療を行ってもなお身体機能が回復せず、日常生活や労働に支障をきたす状態を指します。

これには、手足の機能喪失から視力低下や聴力障害など、さまざまなケースが含まれます。後遺障害認定を受けた等級に基づいて、慰謝料の額が大きく変わるのが特徴です。


高い等級が認定されると、数百万円から数千万円の範囲で慰謝料が支払われることもあります。

個人の力で適正な等級を獲得するのは困難なケースもあるため、弁護士などの専門家に等級認定手続きから代行を依頼される方も多いです。

6-1.  後遺障害等級表と慰謝料額の目安

後遺障害等級に応じた慰謝料の相場(弁護士基準)は以下の通りです。

等級が重くなるほど慰謝料は高額になります。

等級後遺障害慰謝料の金額
1級
2800万円
2級2370万円
3級1990万円
4級1670万円
5級1400万円
6級1180万円
7級1000万円
8級830万円
9級690万円
10級550万円
11級420万円
12級290万円
13級180万円
14級110万円

実際の金額は、例えば業務災害なのか通勤災害なのかなど、複数の要素が考慮されて最終的な慰謝料額が変動します。

6-2.後遺障害等級認定を受けるためのポイント

労災事故により負傷した時刻や症状が出た時刻を記載します。

6-3.㉞平均賃金(算定内訳別紙1のとおり)

後遺障害認定を取得するうえで最も重要なのは、症状固定後の医師の所見と診断書です。

必要に応じて専門医のセカンドオピニオンを受けたり、検査データや画像診断を揃えて認定機関に提出することで、認定結果が変わるケースも少なくありません。


会社や保険会社が用意する書類だけでなく、自らが主治医や専門家に相談し、症状を正確に伝えて診断書に記載してもらうことが認定上有利に働きます。

書類の不備が原因で過小評価されると、受け取れる慰謝料が大きく減少してしまうリスクもあるため注意が必要です。

7. 死亡慰謝料の相場と近親者への補償

労災で従業員が亡くなった場合に請求できる死亡慰謝料と、その近親者が受けられる補償について解説します。

7-1. 死亡慰謝料の金額相場

労災で亡くなった場合、残された家族に対して大きな精神的苦痛が生じるのは当然です。

そのため、会社に安全配慮義務違反など重大な過失があるときには、高額の死亡慰謝料が発生します。


基準例としては、次の表の通りです。

被災労働者の立場死亡慰謝料の金額
一家の支柱2800万円
母親、配偶者2500万円
その他(独身、子ども、高齢者など)2000~2500万円

また、死亡慰謝料だけでなく、労災保険の支給だけでは不足する「逸失利益(将来得られたはずの収入)」や「葬儀費用の差額」もあわせて請求できます。


特に一家の支柱を亡くされた場合、将来の収入源を失うことによる経済的打撃は深刻です。

労災保険の遺族年金だけでは生活レベルを維持できないケースも多いため、早期に弁護士へ相談し、会社側への適正な損害賠償請求(不足分の穴埋め)の準備を進めることが、遺族の生活を守るための重要な手続きとなります。

労災事故の死亡慰謝料の相場はいくら?会社への慰謝料請求・損害賠償請求

労災で死亡事故が起きた場合に、遺族は労災保険から補償を受けることが可能です。 しかし、労災保険に基づく遺族(補償)給付は、労働災害によって死亡した労働者に発生した損害をすべて補てんしてくれるわけではありません。 勤務先に […]

7-2.遺族が請求できる近親者慰謝料

近親者慰謝料は、被害者本人だけでなく、家族を失った遺族の精神的苦痛を金銭的に評価したものです。

特に配偶者や子ども、母親、被扶養者などがいる場合は、生命を奪われ家庭の生活基盤を失うという重大なダメージが認められやすく、金額面にも大きく反映されます。


会社に対して近親者慰謝料を請求する場合、「亡くなった方が家族の中でいかに大きな存在であったか」を客観的に示す必要があります。

そのため、残された家族の年齢、健康状態(例えば家族を失ったことによる遺族の心身の不調)、経済的な依存度などを整理しておきます。


弁護士や専門家のサポートがあれば、こうした証拠資料の収集や適切な主張を行いやすくなるでしょう。

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8. 労災慰謝料の相場がさらに増額される特別なケース

労災事故の慰謝料には基準となる相場がありますが、個別具体的な事情によっては、相場以上の慰謝料への増額が認められるケースがあります。


裁判などで慰謝料の増額事由として考慮されるのは、主に「会社側の悪質性」や「被災者側の精神的苦痛がより大きいと思われる特別な事情」が存在する場合です。

具体的には以下のようなケースが該当します。

  • 会社側の重大な過失・悪質性
    過去に何度も同様の事故が起きていたにもかかわらず安全対策を放置していた場合や、法令違反が常態化していた場合。
  • 労災隠しなどの不誠実な対応
    事故後に会社が労災申請を妨害した、証拠を隠滅しようとした、または被害者に責任を押し付けようとした場合。
  • 被災者の特別な事情
    事故によって将来の夢(特定の職業への就職など)が完全に絶たれてしまった場合や、事故の悲惨さから通常以上に深刻な精神的トラウマを抱えた場合。
  • その他の損害賠償項目を補完する場合
    立証が困難で逸失利益などが十分に認められないケースにおいて、その不利益を補完する目的で慰謝料が調整(増額)される場合。

会社側に極めて悪質な安全配慮義務違反があったり、事故後の対応によって被災者が二重の苦痛を味わったりした場合、慰謝料は通常の基準額以上で算定される可能性があります。

ご自身の事故がこれらに該当するかどうかは、客観的な証拠に基づく法的な判断が必要になるため、示談前に弁護士へ確認することが重要です。

9. 慰謝料以外に請求できる損害賠償項目

慰謝料以外にも、休業損害や逸失利益などさまざまな損害賠償を請求することができます。


精神的苦痛に対する慰謝料だけでなく、実際の収入補償や治療費などの損害賠償を求めることも検討すべきです。

労災保険からの休業補償給付や医療費給付はあくまで損害の一部の補償に留まり、実際の被害総額をすべて補償できないケースがあります。


特に重度の後遺障害や死亡事例では、将来得られたはずの収入を推定して賠償額に加算する「逸失利益」が大きなポイントになります。


これらの項目を正しく算定するためには、給与明細や納税記録など、収入実態を示す書類もあわせて準備しておくとよいでしょう。

労災による損害賠償の基礎知識~相場・算定方法・請求手続きまで徹底解説~

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9-1. 休業損害

休業損害とは、労災事故による怪我や病気で働けなくなったことにより、本来得られるはずだった収入を失ったことに対する補償を指します。


労災保険の「休業補償給付」で支給されるのは、原則として給付基礎日額(平均賃金に近い額)の60%分に留まります(※別途20%の特別支給金がありますが、これは損害賠償額から控除されません)。

つまり、残りの40%分については労災保険からは支払われません。

この「足りない40%分」については、会社側に安全配慮義務違反があれば、損害賠償として全額請求することが可能です。


これにより、休業期間中の経済的負担を軽減することが期待できます。

労災の休業補償給付とは?支給要件・手続き・計算方法・注意点を徹底解説

労働災害(労災)で仕事を休むことになった場合、休業中の経済的な負担を支えるのが労災保険の「休業(補償)給付」制度です。 本記事では、休業(補償)給付を受けられる要件、金額の計算方法、申請手続き、注意点を解説します。 パー […]

9-2. 逸失利益とその計算方法

逸失利益とは、労災事故による後遺障害や死亡によって労働能力を喪失し、「将来得られるはずだったのに得られなくなった収入」を補償する損害項目です。

特に重度の後遺障害が残った場合や死亡事故では、賠償額の中で最も高額な費目となります。


逸失利益の算出には、主に以下の要素を用いた複雑な計算が必要となります。

  • 基礎収入
    事故前の年収(ボーナスを含む)。
  • 労働能力喪失率
    後遺障害の等級に応じ、働く力が何%失われたかという評価(残存労働能力)。
  • 労働能力喪失期間
    原則として67歳までの就労可能期間。
  • ライプニッツ係数
    将来の収入を前払いで受け取る際の中間利息を控除するための指数。

実際の示談交渉では、将来の昇給見込みをどこまで基礎収入に反映させるか、残った後遺障害が仕事にどの程度影響を与えるか(喪失率)が争点となります。

これらの算定には、過去の膨大な裁判例や専門的な法知識が必要となるため、労災問題に精通した弁護士のサポートが欠かせません。

9-3. 治療費・介護費用・その他費目

治療費や手術費、入院費などの直接的な医療費は、原則として労災保険(療養補償給付)から全額支給されるため、窓口負担はありません。

しかし、それ以外の付随する費用については、労災保険の給付だけでは不十分な場合があり、その不足分を会社に対して請求することが可能です。


具体的には、以下の費用が損害賠償の対象となります。

  • 通院交通費
    労災保険の支給基準(原則片道2km以上など)を満たさず、自腹で支払ったバス・電車代やガソリン代などの実費。
  • 介護費用
    労災保険の介護補償給付(月額上限あり)では賄いきれない、将来にわたる自宅介護や施設利用の必要経費。
  • 装具・補助器具代
    車椅子、義手・義足、リハビリ器具などの購入費用。特に労災保険の支給基準を超える高度な装具が必要な場合、その差額を請求します。
  • 自宅・車両の改造費
    後遺障害により、自宅の段差解消(バリアフリー化)や自動車の身体障害者用改造が必要となった場合の費用。

これらの費用を会社に認めさせるためには、単に「必要だった」と主張するだけでなく、領収書や明細書はもちろん、「医師による意見書」や「専門業者による見積書」を証拠として提示し、その支出の必要性と相当性を客観的に立証することが極めて重要です。

10. 労災保険給付と示談金の関係

会社に対して損害賠償を請求する場合、すでに受け取った労災保険給付との「調整」が必要になります。

基本的には、二重取りを防ぐために給付分を損害賠償額から差し引きますが、すべての給付が差し引かれるわけではありません。

特に以下の2点は、最終的な受取額(示談金)を大きく左右する重要なルールです。

  • 慰謝料は差し引かれない
    労災保険には慰謝料という項目がないため、給付を受けていても会社へ全額請求可能です。
  • 特別支給金は控除対象外
    「休業特別支給金」や「障害補償特別支給金」などは、労働福祉事業の一環として行われるという性質を持つことから、会社が支払うべき賠償額から差し引かれません。

適正な示談金を受け取るためには、労災保険と損害賠償の複雑な関係を正しく理解しておく必要があります。

以下では、他制度との違いや追加請求の注意点について解説します。

10-1.労災保険と健康保険の違い

労災保険は業務上や通勤途中の事故・疾病を対象にした公的保険で、治療費や休業補償給付などが支給されます。

一方、健康保険は業務外の病気やケガを補償の対象としており、自己負担割合などの仕組みが異なる点が特徴です。


労災事故で健康保険を利用することはできません。

実際のところ、業務起因性が明らかな場合は、労災保険で申請するほうが被災者に有利なケースが多いといえます。

労災で健康保険を誤って使ってしまった場合の対応方法、申請書類の記入方法

労災事故では、健康保険や国民健康保険は利用できず、労災保険を利用します。 本記事では、労働災害(労災)において誤って健康保険を利用してしまった場合の対応手順や必要な申請書類の記入方法について詳しく解説します。 労災保険と […]

10-2.示談締結時の注意点:清算条項によるリスク

労災保険給付を受けた後、会社と不足分の支払いについて合意することを「示談」と呼びます。

ここで最も注意すべきは、示談書に含まれる「清算条項」の存在です。


清算条項とは、「本示談をもってすべての解決とし、今後一切の請求を行わない」という約束事です。

一度この内容で示談が成立してしまうと、後から「計算が間違っていた」「後遺障害が悪化した」と判明しても、追加請求が法的に極めて困難になります。

そのため、示談書を交わす前には以下の点を確認することが不可欠です。

  • 既受領額の正確な控除
    すでに労災から受け取った給付金が、正しく(二重に引かれることなく)計算されているか。
  • 将来の損害の考慮
    今後発生する可能性のある治療費や後遺障害の影響が網羅されているか。

「会社から提示された示談書にすぐサインする」ことは、適正な補償を自ら放棄するリスクを伴います。

内訳や計算根拠に不明な点がある場合は、署名する前に必ず弁護士によるリーガルチェックを受けるようにしてください。

10-3.会社からの「見舞金」は慰謝料の一部とみなされるか

会社から支払われた「見舞金」が、後から請求する慰謝料(損害賠償)の一部として差し引かれるかどうかは、支払われた名目や実態によって異なります。


見舞金が損害賠償の一部(前払い)として支払われたと認められる場合は、最終的な慰謝料の総額からその金額が差し引かれます。


一方で、会社からの純粋な「お見舞い」や「恩恵的な見舞金」、あるいは労働協約や就業規則に基づいて一律で支給される慶弔金などの場合は、慰謝料から差し引かれないのが原則です。

  • 差し引かれるケース
    示談交渉の前渡し金や、損害賠償の一部に充てる旨の合意がある場合
  • 差し引かれないケース
    就業規則に基づく一律の慶弔金や、純粋な見舞いとしての金銭

見舞金を受け取る際は、どのような趣旨のお金なのかを明確にしておくことが重要です。

安易に「損害賠償の全部または一部として受け取る」といった書面にサインしてしまうと、後から適正な慰謝料を請求できなくなる恐れがあるため注意してください。

11.労災申請の種類と手続きの流れ

労災保険の申請手続きは、大きく「業務災害」と「通勤災害」の2種類に分かれ、それぞれ使用する書類の様式が異なります。


手続きは原則として「被災労働者本人」が請求人となって行いますが、実務上は会社が書類作成を代行するケースが多く見られます。


まずは、手続きの全体像を把握し、「会社を通じた報告」と「国(労働基準監督署)への申請」を切り分けて考えることが重要です。

11-1.通勤災害・業務災害の申請方法

それぞれの申請において、労働基準監督署の審査対象となるポイントは以下の通りです。

これらに不備があると認定が遅れる、あるいは却下されるリスクがあるため、正確な情報整理が必要です。

  • 業務災害
    「業務遂行性(仕事中であったか)」と「業務起因性(仕事が原因のケガ・病気か)」が鍵となります。
    会社側の指示内容や作業記録(作業日報など)と、事故状況に矛盾がないかを確認してください。
  • 通勤災害
    「合理的な経路および方法」での移動中であったかが審査されます。
    通常のルートを大幅に外れたり(逸脱)、私的な用事で中断したりしていないか、当時の移動状況を詳細に整理する必要があります。

11-2.会社への報告と労災申請書類の提出

労災申請の具体的なステップは以下の通りです。

会社が代行してくれる場合でも、内容の最終確認は本人が行う必要があります。

  1. 会社への速やかな報告
    事故後、まずは会社(上司や人事担当者)に報告し、労災の手続きを依頼します。
  2. 病院での手続き
    労災指定病院を受診する際は「労災であること」を伝え、健康保険証は使用しません。
  3. 請求書の作成と会社証明
    「療養補償給付請求書」などの書類を作成します。
    書類には「事業主証明欄」があり、会社から事故の事実確認を受ける必要があります。なお、会社が証明を拒否する場合でも労災申請は可能です。
  4. 労働基準監督署への提出
    会社が提出を代行するのが一般的ですが、会社が協力的でない場合は、労働者本人が直接、管轄の労働基準監督署へ書類を提出することも可能です。
  5. 労働者死傷病報告の確認
    会社には事故の状況を報告する義務(労働者死傷病報告)があります。
    この内容が本人の認識と異なると、後の慰謝料請求で不利になる可能性があるため、可能な限り控えを確認させてもらいましょう。

12.過失相殺・素因減額・時効に関する注意点

労災慰謝料の請求において、算出された金額が必ず全額支払われるとは限りません。

被災者側の不注意(過失相殺)や持病の影響(素因減額)、さらには請求期限(時効)といった要因によって、受取額が大幅に減額、あるいは請求権そのものが消失するリスクがあるためです。

適正な賠償金を確保するために、交渉前に必ず押さえておくべき3つの注意点を解説します。

12-1.被災者の過失がある場合の過失相殺

過失相殺が問題となるのは、例えば安全帯やヘルメットなどの装着義務を怠った、あるいは会社が禁止していた危険作業を独断で行ったなどの場合です。

これらが立証されると、会社の過失分を差し引く形で慰謝料が減額されるため注意が必要です。


一方で、会社側に重大な過失が存在すれば、被災者の過失による減額分が相対的に小さくなるケースもあります。

最終的な割合は示談や裁判の中で慎重に決められるため、事故当時の状況を具体的に示す証拠が重要です。

12-2.持病などがある場合の素因減額

素因減額とは、被災者の体質的要因や持病が原因で通常よりも症状が悪化した場合、その部分を会社の賠償責任から差し引く仕組みです。

例えば、腰痛持ちで元々腰に故障があったところに労災事故の衝撃が加わり、症状がより深刻化したケースなどが挙げられます。


この減額が適用されるかどうかは、医療記録や診断書に基づく専門的な判断が必要となります。

被災者自身でも把握していなかった症状が指摘される場合もあるため、慎重な情報収集と交渉が欠かせません。

12-3.慰謝料請求の時効と早めの行動の重要性

慰謝料請求権には時効が存在し、人身被害に対する慰謝料(損害賠償)請求権の消滅時効は、原則として「被害者が損害および加害者を知った時から5年」です(改正民法第724条の2等)。


また、労災保険の休業補償給付等は2年、障害補償給付等は5年(労働基準法等)と請求項目によって時効が異なります。

上記で解説した年金給付なども含め、時効の起算点は事案によって異なる場合があるため、正確な開始時期を把握することが大切です。


時効を過ぎると基本的には請求が認められなくなってしまうため、労災が発生したら早めに事実関係を整理し、必要書類を揃えて相談することが重要です。

時効を更新する手段としては、内容証明郵便による催告や調停・裁判などを活用する方法もあります。

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13.弁護士に依頼するメリット

弁護士は、裁判例や弁護士会基準に基づき、最大水準の「弁護士基準」で適正な慰謝料を算定・交渉します。


複雑な計算や医療記録の分析を代行し、知識・経験の差による不合理な示談を防ぎます。


万が一裁判へ発展した場合も、書面作成から法廷での主張まで一貫してサポートするため、被災者本人の心理的・時間的負担を劇的に軽減できます。

14.労災慰謝料請求のよくあるトラブルと回避策

実際に労災慰謝料を請求する際に起きやすい問題と、その回避・解決方法を紹介します。

Q.会社が労災申請を拒否する場合どうすればいいですか

A.会社が労災申請を渋る場合は、労働基準監督署や弁護士に直ちに相談してください。

会社は事業所の管理責任等を問われることを恐れ、申請を拒むケースがあります。

万が一、会社が労災申請を拒否する場合でも、被災労働者本人の手続きによって労災申請は可能です。

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Q.会社からの示談金が極端に低い場合どうすればいいですか

A.すぐにサインせず、まずは弁護士へ「適正相場」の確認を依頼してください。

会社側は多くの場合、裁判基準(弁護士基準)よりも低い独自の基準で示談金を提示してきます。

提示額が適正かどうかのアドバイスや、弁護士による再計算を受けておくと安心です。

以下の2点は、損をしないための鉄則です。

  • 後遺障害等級の確定まで待つ
    症状固定後、等級が認定される前に示談を成立させてしまうと、将来の症状悪化や追加の出費を一切補償してもらえなくなります。
  • 清算条項の有無を確認する
    示談書に「今後一切の請求を行わない」という趣旨の条項(清算条項)がある場合、署名・捺印した後の追加請求は法的にほぼ不可能です。

15.まとめ

労災による慰謝料は、会社の安全配慮義務違反や過失が認められたときに追加で請求できる重要な補償項目です。

入通院慰謝料や後遺障害慰謝料、死亡慰謝料など、その種類や算定基準は多岐にわたります。


一方、労災保険だけでは精神的苦痛を十分にカバーできないことが多いので、正確な知識を持って早期の申請・交渉を行うことが大切です。


請求額を確保するには、事故状況や医療記録、給与明細などの証拠を的確に揃え、弁護士などの専門家による助言を受けながら進めることがおすすめです。

時効や過失相殺などの減額要素を理解しつつ、公平な示談もしくは裁判での解決を目指しましょう。


弁護士法人一新総合法律事務所では、労災事故にあった従業員の方のために、会社との交渉や慰謝料請求、後遺症が残った場合の労働基準監督署への後遺障害申請など各種サポートをおこなっています。


また、労災問題の初回無料相談を実施しています。

無料相談では、弁護士があなたの置かれた状況やご希望を丁寧にお伺いし、① 解決方法のご提案、② 解決の見通しについての説明、③ 不安や疑問に対する個別の質問に回答いたします。


ぜひお気軽にお問い合わせ、ご相談ください。

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この記事を監修した弁護士
弁護士 谷尻 和宣

谷尻 和宣
(たにじり かずのぶ)
弁護士法人一新総合法律事務所 理事・松本事務所長・弁護士

出身地:京都府
出身大学:京都大学法科大学院修了
主な取扱分野は、交通事故などの事故賠償案件と相続。そのほか、離婚、金銭問題など幅広い分野に精通しています。
保険代理店向けに、顧客対応力アップを目的として「弁護士費用保険の説明や活用方法」解説セミナーや、「ハラスメント防止研修」の外部講師を務めた実績があります。